── 目に見える財産だけで足りる、とは限りません。
相続財産とは、亡くなった方が残した現金や預金、土地や建物、株式など、お金に換算できる価値のあるものすべてを指します。相続税は、その合計額をもとに計算します。その中には、家族名義の預金や自宅の現金、亡くなったことをきっかけに受け取る保険金や退職金など、気づきにくい財産も含まれます。通帳や登記にそのまま出てこないものほど、申告のときに抜けやすいのです。
たとえば、こんなご相談があったとします。ご相談者は、お父様を亡くされた50代の方。手元にそろえたのは、お父様名義の通帳が数冊と、自宅の登記の書類。「これで財産は全部そろったはず」と書き出してみたところ、いくつか気になることが出てきたといいます。お父様のお金なのに、お母様名義になっている定期預金。仏壇の引き出しにしまってあった現金。生命保険会社から振り込まれた1,500万円。これらは、相続財産に入れるのか。
「どこまでが”財産”になるのか、線引きがわからなくて」
――そう戸惑われるのも、無理のないことです。初めての相続では、何が相続財産に入るのか、多くの方が迷われます。ここがはっきりすると、あとの税金の計算も、どう分けるかも、考えやすくなります。まずは、どんなものが財産に含まれるのか、見ていきましょう。
◆ 相続財産の洗い出し|まず目に見える財産と隠れた財産の全体を把握する
まずは、どんな財産があるのかを知ることから始めます。いくらになるかは、そのあとです。見ておきたいのは、大きく次のようなところです。
- 預金や不動産、株式など、目に見える財産
- 家族名義の預金や手元の現金など、見落としやすい財産
- 保険金や退職金など、亡くなって受け取る財産
- お墓など相続税がかからない財産や、差し引ける債務
分かりやすい預金や不動産は、通帳や登記から見えてきます。気をつけたいのは、そこには出てこない財産のほうです。
◆ 見落としやすい相続財産|家族名義の預金や手元にある現金の扱い
相続税の対象になるかどうかは、名義そのものよりも、そのお金の出どころや、実際に管理していたのが誰かで決まります。亡くなった方の名義のものだけを集めると、名義が違うだけで中身は本人の財産だったものや、通帳には記録の残らない現金などが、こぼれ落ちてしまいます。
見落としやすいものの一つが、家族名義の預金です。名義がお子さんやお孫さん、配偶者であっても、お金を出して実際に管理していたのが亡くなった方であれば、その預金は相続財産に含めて考えることになります。名義がだれかだけでは判断できないため、抜けやすいところです。どんな預金がこれにあたり、どう見分けるのかは、『名義預金とは? 名義が家族でも相続財産になる預金』で説明しています。
手元にある現金も、忘れられがちです。自宅の金庫や仏壇にしまってあった現金、いわゆるタンス預金も、相続財産に含めます。入院や施設の費用にと、亡くなる少し前に口座から下ろしておいた現金も、使われずに残っていれば同じ扱いです。通帳の残高には載らないぶん、抜けやすいお金といえます。こうした現金の扱いは、『自宅にあった現金は相続財産? 亡くなる前に下ろしたお金の扱い』で取り上げています。
◆ みなし相続財産とは|亡くなったことで受け取る保険金や退職金の扱い
生命保険金や死亡退職金は、亡くなった方が生前に持っていた財産ではありません。けれど、亡くなったことをきっかけに遺族が受け取り、相続で財産を受け継ぐのと経済的には近い意味を持つため、相続税では相続財産と同じように扱われます。こうしたお金を、みなし相続財産と呼びます。
生命保険金には、残された家族の生活を支えるという性格から、一定の非課税の枠が設けられています。ただ、受け取る人や受け取り方によって、扱いが変わることもあります。枠の考え方や受取人による違いは、『生命保険金に相続税はかかる?|非課税枠と、受け取る人で変わる扱い』で掘り下げています。
勤務先から遺族へ支払われる死亡退職金も、同じみなし相続財産です。こちらにも非課税の枠がありますが、生命保険金の枠とは別に計算します。あわせて受け取ることの多い弔慰金との線引きなど、迷いやすいところは『死亡退職金に相続税はかかる? 非課税枠と、弔慰金との違い』で触れています。
出典:国税庁「No.4105 相続税がかかる財産」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4105.htm
◆ 相続財産から差し引けるもの|非課税になる財産と控除できる債務
財産を集めるときは、見落としだけでなく、反対に、相続財産に含めなくてよいものや差し引けるものにも目を向けておきたいところです。たとえば、お墓や仏壇のように、相続税がかからない財産があります。また、亡くなった方が残した借入金や、未払いの医療費・税金、葬式にかかった費用などは、財産から差し引いて計算できます。差し引けるものと差し引けないものは、『葬式費用は相続財産から差し引ける?債務控除の対象と香典・お墓の扱い』でまとめています。
プラスの財産だけでなく、こうしたマイナスの分も合わせて見て、はじめて、実際に相続税の対象となる額が見えてきます。何が差し引けるのかは、申告の段階でひとつずつ確かめていくことになります。
◆ 名義ではなく実質のお金の流れから確認する
こうして見ていくと、相続財産の洗い出しは、「亡くなった方の名前で残っているもの」を集める作業というより、「どのお金が、実質だれのものだったか」をたどっていく作業に近いことがわかります。分かりやすい預金や不動産よりも、一見それと分からないものにこそ、見落としは潜んでいます。
確かめることが多いように見えても、一つずつたどっていけば、どんな財産がどれだけあるのかが、少しずつ分かってきます。だれが受け継ぎ、何を残されたのか。それを丁寧に見ていく時間は、財産を確かめるためだけでなく、故人の暮らしをもう一度たどる時間にもなります。
