自宅にあった現金は相続財産? 亡くなる前に下ろしたお金の扱い

目次

── 通帳に記録が残らなくても、「なかったお金」にはなりません。

手許現金とは、亡くなった方が自宅や財布に持っていた現金のことです。預金や株とまったく同じように相続財産に入りますが、通帳のような記録がどこにも残らないため、ご家族が申告から漏らしてしまうこともあります。隠すつもりがなくても、あとから見つかれば、足りなかった相続税に上乗せの税金までついてきます。

たとえば、こんなケースです。

ご相談者は、お母様を亡くされた50代の方。ご実家を片づけていたところ、仏壇の引き出しから帯のついた札束と、封筒に入った現金が出てきました。数えてみると、合わせて400万円ほど。通帳のどこにも記載がなく、いつから置かれていたものかも分かりません。

「これは銀行のお金ではないので、相続税の申告には関係ありませんよね」

結論からいえば、亡くなった日にお母様の手元にあった現金は、金額の大小にかかわらず相続財産です。なぜそうなるのか、順を追って見ていきます。

◆ 手許現金とは?|亡くなった日に自宅にあれば「預金」と同じ扱い

相続税は、亡くなった方が亡くなった日に持っていた財産のすべてにかかります。土地も預金も株も、そして現金も、そこに区別はありません。自宅に置いたままのお金は「タンス預金」と呼ばれることもありますが、呼び方が変わっても扱いは変わりません。

現金は評価も単純です。額面がそのまま評価額になります。土地や株のように、評価額を出すための計算がいりません。そのまま申告書に書く。それだけです。

にもかかわらず、この現金が申告漏れの常連なのは、記録がどこにも残らないからです。預金や株なら、金融機関に頼めば残高証明書が出てきます。現金だけは、ご家族が自分で見つけて、自分で確かめて、自分で申告するしかありません。誰も教えてくれないので、申告に入れるものだと知らないまま漏れてしまいます。

◆ 亡くなる直前に引き出したお金|「下ろせば財産にならない」は通じない

相続税の相談で、いちばん多い勘違いがこの引き出しです。

亡くなる直前に預金を引き出すご家庭は、少なくありません。口座が凍結されると当面のお金に困る、という現実的な事情があるからです。たとえば、入院中のお父様の口座から300万円を引き出しておく。通帳の残高は減りますが、そのお金がなくなったわけではありません。引き出した300万円は、亡くなった日にはご自宅か、どなたかの手元にあります。預金だったものが現金という形で残っているだけで、財産としては同じものです。これが手許現金です。

下ろしたお金を葬儀に使ったときも同じです。亡くなった日に手元にあった額は財産のままで、使ったぶんは葬式費用として別に差し引きます。

引き出すこと自体には、なんの問題もありません。ご家族が困らないために必要なお金です。気をつけたいのは、そのあとです。通帳には大きな出金が残ります。その行き先は、あとで必ず確かめられます。「下ろしたぶんは、もう終わった話」と思って申告に入れないと、そこで漏れます。

もっとも、承知のうえで書かない例もあります。国税庁が公表している調査の事例にも、亡くなる前に引き出した多額の現金をご自宅で保管し、その存在を頼んだ税理士にも伝えないまま申告から外していた、というものが挙げられています。よくある形だからこそ、事例として載るわけです。

◆ 自宅の金庫の中が、なぜ税務署に分かってしまうのか?

金庫の中は、税務署にも見えません。それでも指摘されるのは、現金そのものではなく、その手前が見えているからです。

税務署は、金融機関から過去の口座の動きを、何年もさかのぼって取り寄せることができます。そこに、亡くなる直前の300万円や、何年も続いてきた不自然に大きな出金が出てくる。そうなれば、そのお金がどこへ行ったのかを尋ねられます。生活費にしては多すぎる、家も車も買っていない、口座にも戻っていない。となれば、どこかに現金のまま残っているはずだ、という話になります。

近年の調査でも、申告漏れが見つかった財産のうち、金額でいちばん大きいのは現金・預貯金です。名義は家族でも中身が亡くなった方のものだった、という預金についても、同じように問われます。そちらは『名義預金とは?子や孫の名義でも相続税がかかる理由と、税務調査で問われるポイント』で整理しています。

出典:国税庁「相続税の調査等の状況」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/sozoku_chosa/pdf/sozoku_chosa.pdf

◆ 単なる「うっかり見落とし」と「隠したとき」|税務署の扱いは全く違う

現金の申告漏れには、二種類あります。

ひとつは、本当に気づかなかった場合。仏壇の奥にあることを誰も知らなかった、という類です。あとから見つかれば、その時点で修正申告をします。足りなかった相続税に加えて、上乗せの税金(過少申告加算税、原則として1割)と、利息にあたる延滞税がかかります。

もうひとつは、あると分かっていて書かなかった場合。こちらは重加算税といって、足りなかった税金の35パーセント(そもそも申告していなければ40パーセント)が上乗せされます。追加の税金が200万円なら、それとは別に70万円です。しかも、通常なら5年で区切られる調査できる期間が、7年まで延びます。

見落としと、隠すこと。税務署はこの二つをはっきり分けて扱います。分けて扱うからこそ、見つかった現金は、隠さずに出したほうが結果として軽く済みます。

◆ 家の中のどこを探す?手許現金の見つけ方と申告書への正しい書き方

家の中の現金は、片づけと一緒に探すことになります。思い当たるところを挙げておきます。

現金がありそうなところ

  • お財布、小銭入れ、上着やバッグの内ポケット
  • 金庫、仏壇や仏具の引き出し
  • タンス、押し入れ、引き出しの奥、本のあいだ
  • 貸金庫
  • 入院していたなら、病室のロッカーやベッドまわり

見つけたら、いくらが、どこにあったかをメモに残します。写真も撮っておくと安心です。

申告書に書くのは、亡くなった日の時点でいくらあったか、です。片づけの途中で出てきたお金は、たいてい亡くなる前からそこにあったものですから、手許現金として計上します。一方、亡くなったあとに口座から下ろしたお金は、亡くなった日にはまだ預金でしたから、預金の残高のほうに含まれています。申告書ではどちらも同じ「現金、預貯金等」ですが、二重に計上してしまわないよう、日付で切り分けてください。

家族のために手元に置かれていたお金を、見つけて、そのまま申告書に書く。仏壇の奥の札束も、財布の小銭も、それで気がかりなく次へ進めます。

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