── 相続した自宅の土地の評価額を、8割下げられる制度
小規模宅地等の特例は、亡くなった方が住んでいた自宅の土地について、相続税を計算するときの評価額を大きく下げられる制度です。330㎡までの部分であれば、評価額を8割も減らせます。相続財産の大部分が自宅の土地という家庭では、この特例が使えるかどうかで、相続税額が大きく変わります。ただし、特例を使って相続税がゼロになる場合でも、申告そのものは必要になります。
ある相続のご相談で、こんなことがありました。
お父様を亡くされた、50代の女性からのご相談でした。お母様はすでに先立たれ、お父様は郊外のご実家で一人暮らしをされていました。ご相談者は相続人である長女で、数年前から実家に戻り、お父様と同居して、身の回りのお世話をしてきました。
お父様が遺したのは、そのご実家の土地と建物、それにわずかな預貯金だけでした。とはいえ、その土地は駅からそう遠くない場所にあり、評価額はそれなりの金額になりました。ざっと計算してみると、相続税の基礎控除を超えそうだといいます。
はじめて向き合う「相続税」という言葉に、ご相談者はずいぶん心細くなったそうです。それでも自分なりに調べていくうちに、自宅の土地には「小規模宅地等の特例」という大きな評価減の制度があると知りました。
「この特例を使えば、うちは相続税がかからないと聞きました。かからないのなら、申告もしなくていいんですよね?」――半ば確認するように、そうおっしゃいました。
これが、いちばん多いつまずきです。
◆ 小規模宅地等の特例とは(自宅の土地は330㎡まで8割減)
相続税は、亡くなった方が遺した財産の評価額に対してかかります。預貯金や株式だけでなく、土地や建物もすべて評価額に足し合わせたうえで、基礎控除を超えた部分に税金がかかる仕組みです。
このとき、意外と重くのしかかってくるのが自宅の土地です。とくに駅の近くや市街地では、評価額が数千万円になることは珍しくありません。財産と呼べるほどの預貯金がなくても、土地の評価額だけで基礎控除を超えてしまう、ということが起こります。
そこで設けられているのが、小規模宅地等の特例です。亡くなった方が住んでいた自宅の土地については、330㎡までの部分の評価額を、8割減らすことができます。
たとえば、300㎡で評価額5,000万円の自宅の土地があったとします。330㎡以内なので全体が対象となり、8割にあたる4,000万円が減額され、課税の対象になるのは残りの1,000万円だけになります。土地の評価額が5分の1にまで下がるわけですから、税額への影響はとても大きいものです。
面積が330㎡を超える場合でも、土地の全部が対象から外れるわけではありません。330㎡までの部分に8割減が適用され、それを超えた部分だけが通常どおりの評価になります。
特例の対象になる土地は、大きく分けて3種類あります。自宅として使っていた土地(330㎡まで8割減)、事業に使っていた土地(400㎡まで8割減)、人に貸していた土地(200㎡まで5割減)です。ただ、経営者や資産家ではない一般のご家庭では、関係してくるのはほとんどが自宅の土地です。この記事でも、自宅の土地を中心に説明していきます。
出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
◆ 特例を使えるのは誰か(配偶者・同居の子・家なき子)
評価が8割も下がる制度ですから、誰が相続しても無条件で使える、というわけではありません。自宅の土地について特例を使えるのは、その土地を取得した人が次のいずれかに当てはまる場合です。
まず、亡くなった方の配偶者です。配偶者が自宅の土地を相続する場合は、とくに条件はなく、そのまま特例を使えます。
次に、亡くなった方と同居していた親族です。今回の事例の長女のように、親と同じ家に住んでいた子などがこれにあたります。この場合は、相続税の申告期限まで、その家に住み続け、かつ土地を持ち続けていることが条件になります。ここでいう同居は、実際に一緒に暮らしていた実態が必要で、住民票の住所を同じにしているだけでは足りません。
そして、亡くなった方に配偶者も同居の相続人もいなかった場合には、別居していた子などでも、一定の条件を満たせば特例を使えることがあります。持ち家のない子が実家を相続するようなケースで、通称「家なき子」と呼ばれます。家なき子については「家なき子の特例は離婚後も使える?元夫の家に住む人が実家を相続したとき」で取り上げています。
なお、亡くなる前に老人ホームなどへ入居していて、自宅が空き家になっていた場合でも、要介護の認定を受けているなど一定の条件を満たせば、その家に住み続けていたものとみなして特例を使えることがあります。「介護のために家を離れていたから使えない」と早合点しなくて大丈夫です。
◆ 特例で相続税がゼロになる場合でも、申告は必要
ここからが、冒頭のご相談でいちばんお伝えしたかったところです。
小規模宅地等の特例は、「相続税の申告書に、この特例を使いますと書いて、必要な書類を添えて提出する」ことが適用の条件です。つまり、申告をして、はじめて8割減が受けられます。
だから、「税額がゼロになるなら、申告はしなくていい」という判断は危険です。申告をしないと特例が使えず、特例が使えないと土地は評価額そのままで評価され、結果として相続税が出てしまう、ということになりかねないのです。
冒頭のご相談も、特例を使えば相続税はゼロになる見込みでした。けれど、それは正しく申告をしてこそです。「ゼロなら申告もいらない」と思い込んで手続きをしないままだと、せっかくの8割減を受けられず、後悔することになりかねません。
実際の申告では、特例を使う旨を記した申告書に加えて、小規模宅地等の計算明細書や、遺産分割協議書の写しなど、いくつかの書類を添えて提出します。税額がゼロでも、この一式をそろえて期限までに出す、というひと手間が必要になります。
◆ 小規模宅地等の特例の落とし穴と、申告期限(10ヶ月)
最後に、つまずきやすい点をいくつか挙げておきます。
まず、申告期限です。相続税の申告は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内が原則です。特例を使うにも、この期限までに申告をすませる必要があります。書類集めや遺産分割の話し合いに時間がかかることもあるので、思っているより余裕はありません。
次に、遺産分割が終わっていないと使えない、という点です。誰がその土地を相続するかが決まっていないと、そもそも「取得した人が条件を満たすか」を判断できないため、申告期限までに分割が済んでいない土地は、原則として特例の対象になりません。このつまずきについては「小規模宅地等の特例、未分割だと使えない|不動産を相続したときの注意点」でも書いています。
そして、同居で特例を使う場合は、申告期限まで住み続け、土地を持ち続けることが条件になります。相続税の申告が終わる前に売ってしまったり、引っ越してしまったりすると、条件から外れてしまうことがあります。
こうして並べると細かく感じるかもしれませんが、要点は「自宅の土地は330㎡まで8割減らせる」「使えるのは配偶者・同居の子・家なき子など」「税額がゼロでも申告は必要」「期限は10ヶ月」の4つです。ここを押さえておけば、大きな取りこぼしは防げます。
◆ 相続した自宅を、特例で守るために
この特例は、もともと、遺された家族が相続税を払うために住まいまで手放さずに済むように、という思いで設けられた制度です。数字や要件は少しややこしいものの、根っこにあるのは「住み慣れた家を守る」というやさしい発想です。
大切な家を、これからも家族が安心して受け継いでいけるように。制度を上手に使いながら、後悔のない相続にしていただけたらと思います。
