相続した不動産を売ったときの税金|取得費加算と空き家3000万円控除

目次

── 「相続してすぐ売ると、税金が高い」とは限りません

相続した実家を売って利益が出ると、相続税とは別に、売った人自身へ所得税と住民税がかかります。相続してすぐ売ると税額が上がるのでは、と身構える方もいますが、相続した不動産で本当に効いてくるのは、売る時期よりも、買ったときの値段が分かるかどうかです。

相続した不動産を売るとき、多くの方がつまずくポイントがあります。たとえば、こんなご相談です。

実家を相続された、50代の方でした。3人きょうだいの一人です。お父様は早くに亡くなり、その後は、お母様がひとり、その家で暮らしておられました。そのお母様も亡くなり、残された実家を、3人で受け継ぐことになりました。

きょうだいは誰も実家に戻る予定がなく、それぞれ自分の住まいを持っています。思い出の詰まった家ではあるものの、空き家のまま抱えておくのも難しい。話し合った末に、売って、代金を3人で分けることにしました。売りに出してみると、思っていたよりまとまった金額になりそうでした。古い一戸建てですが、住宅地として人気のある場所にあり、土地に値がついたのです。

ただ、ご相談者には、気がかりが二つありました。一つは、お父様が家を買ったときの契約書が、どこを探しても見つからないこと。もう一つは、売る時期のことです。

「相続税も、ちゃんと納めたばかりなんです。それなのに、家を売ったら、また税金がかかるんでしょうか。しかも、“すぐ売ると税金が高くなる”とも聞いて……」

たしかに、相続税を納めたうえに、売ってまた税金、と身構えたくなります。けれど、ご相談者の心配は、一つは思い違いで、もう一つは、打つ手のある話でした。順を追って見ていきます。

◆ 相続してすぐ売っても「短期」にはならない——所有期間は親から引き継ぐ

まず、ご相談者が気にされていた「売る時期」の心配から。結論をいえば、これは多くの場合、取り越し苦労です。

不動産を売った利益(譲渡所得)にかかる税率は、その不動産を何年持っていたかで、大きく二つに分かれます。売った年の1月1日の時点で所有期間が5年を超えていれば長期で、税率はおよそ20%(正確には20.315%)。5年以下だと短期で、39.63%と、ほぼ2倍になります。

ただ、相続した不動産の所有期間は、自分が相続した日からではなく、亡くなった方がその不動産を買った日を引き継いで数えます。取得費も同じく、亡くなった方が買ったときの金額を引き継ぎます。たとえば、お父様が何十年も前に手に入れた家であれば、その古い取得の時期を引き継ぎます。ですから、相続してすぐ売っても長期にあたり、低いほうの税率が使えるのです。見られているのは、相続してからの期間ではなく、親が持っていた期間も含めた長さ——そう考えると、「すぐ売るから短期」という心配は解けていきます。

◆ 買った値段が分からないと、税金が膨らむ——概算取得費という落とし穴

むしろ本当に気をつけたいのは、もう一つの心配——買ったときの値段が分からない、という点です。

譲渡所得は、売った金額から、買ったときの金額(取得費)と、売るためにかかった費用(仲介手数料や印紙代など。譲渡費用といいます)を差し引いて計算します。この取得費が分からないときは、売った金額の5%を取得費とみなして計算します(譲渡費用のほうは、これとは別に差し引けます)。裏を返せば、買った値段が分からないと、売った金額のほとんどが「儲け」として扱われてしまう、ということです。

古い家では、これがよく起こります。何十年も前の契約書や領収書は、なかなか残っていないからです。たとえば、実家が3,000万円で売れたとします。買ったときの記録がなく、取得費が5%の150万円しかないとされると、利益はおよそ2,850万円。長期の税率で計算しても、税金は約580万円にのぼります。もし「2,000万円で買った」という記録が残っていれば、利益は1,000万円、税金はおよそ200万円。同じ家でも、記録が一枚あるかどうかで、これだけ差がつきます。

だからこそ、まず探したいのは、買ったときの売買契約書です。これが見つかれば、実際の金額で計算できます。契約書が見当たらない場合でも、当時の通帳やローンの記録などから取得費を裏づけられることがありますが、どこまで認められるかはケースによって変わります。あきらめる前に、一度確かめておきたいところです。

なお、この「買った値段が分からないと税金が膨らむ」問題は、不動産に限りません。株式を相続して売るときも同じで、株式のケースは『相続した株の税金|取得費が分からないと税負担が増える理由』で取り上げています。

出典:国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm

◆ 相続税を取得費に足せる「取得費加算の特例」——3年10ヶ月の期限に注意

相続税を払ったうえに所得税まで、というのは、たしかに重く感じます。その負担をやわらげるために用意されているのが「取得費加算の特例」です。相続した財産を早めに売れば、納めた相続税のうち、その不動産に対応する分を取得費に上乗せでき、そのぶん利益が圧縮されて、所得税・住民税を抑えられます。

使えるのは、相続税を納めた人が、相続税の申告期限の翌日から3年以内に売った場合です。相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月。あわせて「相続開始から3年10ヶ月以内」が、実際の期限になります。

そして、もう一つ大切なのが、この特例は確定申告で申請して初めて使えるということです。うっかり使い忘れたまま申告してしまうと、あとから適用を受けることは、原則としてできません。相続税をきちんと納めた人ほど使う意味のある特例ですから、売る時期と、確定申告での申請を、忘れずにおさえておきたいところです。

出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm

◆ 空き家として売るなら、3,000万円の特別控除も——古い一戸建てが対象

親がひとりで暮らしていた実家を相続して売る場合、もう一つ大きな味方があります。いわゆる「空き家特例」で、条件に合えば、利益から最高3,000万円まで差し引けます。今回のように、まとまった利益が出そうなときほど、効いてきます。

主な条件は、次のとおりです。

  • 1981年5月31日以前に建てられた一戸建て(マンションなどの区分所有は対象外)
  • 被相続人が、亡くなる直前までひとりで住んでいたこと
  • 相続してから売るまで、空き家のままにしておくこと
  • 耐震リフォームをするか、取り壊して更地にして売ること
  • 売却代金が1億円以下であること
  • 相続開始から3年を過ぎた年の年末までに売ること

これらの条件のうち、とくに見落とされやすいのが、最後の「売る時期」です。相続開始から3年を過ぎた年の年末が期限になります(なお、この特例自体は、いまのところ2027年12月31日までの売却に使えるものとされています)。ほかにも細かい条件があるので、使えそうなら、早めに確認しておくと安心です。なお、この特例と取得費加算は、同じ不動産では両方は使えず、どちらか有利なほうを選びます。

今回のように、きょうだいで実家を相続して売るときは、控除の枠を一人ずつ使えます。3人で共有して相続し、そろって売れば、それぞれが控除を受けられるということです。ただし、相続した人が3人以上のときは、一人あたりの上限が2,000万円になります。それでも3人なら、合わせて最大6,000万円まで控除できます。

出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

◆ 相続した実家を売る前に、しておきたいこと

こうして見ると、ご相談者が心配していたことは、いずれも見通しの立つものでした。すぐ売っても短期にはならず、取得費さえ分かれば税は膨らまない。相続税を納めていれば取得費加算が使え、空き家として売れば大きな控除もある。うまく当てはまれば、譲渡にかかる税金はぐっと軽くなり、場合によっては、かからずに済むこともあります。

やっておきたいことは、そう複雑ではありません。まず、買ったときの値段が分かる記録が残っていないかを、早めに探すこと。次に、取得費加算や空き家特例が使えるかを、売る前に見ておくこと。取得費加算は3年10ヶ月以内、空き家特例は相続から3年を過ぎた年の年末までと、どれも期限があります。売ると決めたら、その期限から逆算して動くと、選べる道が広がります。

実家を手放すというのは、金額の損得だけで割り切れるものではありません。それでも、税金の見通しを先に立てておくと、いざというときに慌てず、気持ちの整理もしやすくなります。お父様やお母様が長く暮らした家を、どんな形で次へ送り出すか。その選択を、少しでも軽い負担でできるように、売ると決める前に、一度、税金の道筋を確かめておきたいところです。

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