──相続税の前に来る、4ヶ月の期限
親が亡くなった年に株を売っていると、相続税とは別に「準確定申告」が必要です。期限は知った日の翌日から4ヶ月と短く、見落とすと延滞税がかかります。
実際に、ある相続のご相談で、こんなことがありました。
親御さんを亡くされた、相続人の方からのご相談でした。亡くなった親御さんは、生前、ご自身で株の売買をされていた方。相続税の申告が必要になることは、ご家族も分かっていました。けれど私が最初にお伝えしなければならなかったのは、その相続税の前に、もう一つ申告がある、ということでした。
「準確定申告」です。
これは、亡くなった方ご自身の、生前の所得についての確定申告です。亡くなった親御さんは、その年に株を売って利益が出ていました。その利益には、所得税がかかります。本来ならご本人が翌年に確定申告するはずだったものを、亡くなったあとは、相続人が代わりに申告する。これが準確定申告です。
そして、ここに最初の落とし穴があります。準確定申告には、相続税の10ヶ月とはまったく別の、もっと早い期限があるのです。
◆ 相続税より、ずっと早い「4ヶ月」
準確定申告の期限は、「亡くなったことを知った日の翌日から4ヶ月以内」です。相続税の10ヶ月と比べると、半分にも満たない。葬儀や法要、年金や保険の手続きに追われているうちに、あっという間に過ぎてしまいます。
しかも、多くの方が、そもそも「亡くなった人に確定申告がいる」こと自体を知りません。相続税の準備に気を取られているうちに、その手前にある4ヶ月の期限が、静かに近づいてくるのです。
なぜ、株を売っていると、この準確定申告が必要になるのか。鍵になるのは、株を「どの口座」で持っていたか、です。
証券会社の「特定口座(源泉徴収あり)」で売っていた場合は、利益が出た時点で税金が天引きされているので、原則として、改めて申告する必要はありません。一方、「一般口座」で売っていた場合は、利益から税金が引かれていないので、自分で申告して納めなければならない。今回の親御さんは、この一般口座で売買をされていました。だから、準確定申告が必要だったのです。
◆ 取得価額が分からないと、税が膨らみ延滞税も
準確定申告で株の利益を計算するには、「売った金額」から「買った金額(取得価額)」を引きます。つまり、親御さんがその株をいくらで買ったのか、という記録が要ります。
ところが、今回はその記録が、すぐには見つかりませんでした。親御さんの書類が整理されておらず、取得価額の分かる資料が、どこにあるのか分からない。私は資料を探していただくようお願いし、あわせて「もし期限までに見つからなければ、申告が遅れて延滞税というペナルティがかかります」と、お伝えしていました。
ここで、取得価額が分からないことの怖さが、二重に効いてきます。
一つは、税金そのものが膨らむこと。買った値段がどうしても分からないと、「売った金額の5%を取得価額とみなす」というルールで計算することになります。裏を返せば、売値の95%が利益とみなされる、ということ。本当はもっと高い値段で買っていたかもしれないのに、税金が大きくなってしまいます。
もう一つが、今回まさに起きたことです。資料を探しているあいだに、4ヶ月の期限が過ぎてしまった。最終的に、取得価額の分かる資料は、相続税の期限(10ヶ月)までには見つかり、準確定申告と相続税申告を一緒に提出することができました。けれど、準確定申告そのものは、すでに4ヶ月の期限を過ぎていた。その遅れた分について、延滞税がかかってしまったのです。
しかも、ペナルティは延滞税だけでは終わりませんでした。期限に遅れて申告したこと自体に対して、延滞税とは別に「無申告加算税」というペナルティもかかります。そして今回は、これが申告を終えてしばらく経ってから、後日あらためて届きました。「これでひと区切り」と思っていたところに、もう一つの税金の通知が来る。期限に一度遅れると、ペナルティは一度きりではなく、時間差で重なってくることがあるのです。
取得価額の資料がない、というたった一つのつまずきが、税金を膨らませる方向にも、期限に遅れる方向にも、両方に効いてくる。ここが、本当に厄介なところです。
◆ 「聞いていない」が生まれるとき
正直に、もう一つ、お伝えしておきたいことがあります。
私は、資料が間に合わなければ延滞税がかかることを、途中でもお伝えし、最終的なご報告のときにも、改めてお伝えしていました。それでも、ご相談者の方には「そんな話は聞いていない」と受け取られてしまった。
これは、私自身の伝え方の課題でもあります。けれど同時に、相続という場のむずかしさでもある、と感じています。大切な人を亡くした直後の、慌ただしく、気持ちの落ち着かない時期に、「4ヶ月の期限」や「延滞税」といった早くて細かい話をしても、なかなか記憶に残らない。聞いてはいても、頭に入る余裕がない。そういう時期なのです。
だからこそ、これを読んでくださっている、まだ何も起きていない今のうちに、知っておいてほしいと思うのです。
◆ 一般口座の株は、取得価額を確かめておく
できることは、シンプルです。
もし親御さんが、今、ご自身で株の売買をされているなら――とくに「一般口座」で持っておられるなら――二つだけ、確かめておいてください。
一つは、買ったときの値段が分かる資料(取引報告書や、購入時の記録)が、どこにあるか。これさえ分かっていれば、税金が5%ルールで膨らむことも、資料探しで期限に遅れることも、避けられます。
もう一つは、「亡くなった年に株を売っていると、相続税とは別に、4ヶ月という早い期限の準確定申告がある」ということ。この期限の存在を知っているだけで、慌てて資料を探し回る事態を、防ぐことができます。
相続した株には、納税資金の壁があり、売ったあとには相続人ご自身の所得税が待っています。前者については「相続した株はすぐ売れない|口座移管にかかる期間と納税資金の準備」、後者については「相続した株を売ったときの税金|取得費がわからない時の譲渡所得の注意点」で、それぞれくわしくお伝えしました。そして今回の、亡くなった年の準確定申告。株は、相続のいろいろな場面で、思いがけない税金の顔を見せます。
だからこそ、親御さんがお元気なうちに、「株のことは、どこに何があるか」を一度整理しておく。それだけで、いざというときの慌ただしさが、まるで変わります。