── 相続税の申告とは別に、もっと早い期限がやってきます。
準確定申告は、亡くなった方のその年の所得を、相続人が代わりに申告・納税する手続きです。アパートやマンションを貸していて不動産所得があった方では、これが必要になります。期限は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内で、相続税より早く来るため、見落とすと、あとで加算税や延滞税がかかることがあります。
たとえば、こんなご相談があったとします。
ご相談者は、お父様を亡くされた50代の方。お父様は長いあいだ、アパートを数室貸し、不動産所得の確定申告を毎年ご自分でしてこられました。そのお父様が今年の春に亡くなり、相続税の準備を進めていたところ、「お父様の今年の所得税も申告が要りますよ。しかも4か月以内です」と言われ、ご相談者は驚かれました。
「相続税は10か月と聞いていました。それとは別に、もう一つ申告があるんですか。しかも、そちらのほうが早い……」
――そう戸惑われるのも、無理のないことです。相続税とは別に、亡くなった方自身の所得税を精算する手続きがあります。まずは、その中身から順番に見ていきましょう。
◆ 準確定申告とは?|亡くなった方の所得を相続人が申告する手続き
所得税は本来、1月1日から12月31日までの1年間の所得を、翌年の2月16日から3月15日までに申告して納めます。ところが、年の途中で亡くなると、本人はその年の申告ができません。そこで、相続人が、1月1日から亡くなった日までの所得を計算し、代わりに申告・納税します。これが準確定申告です。
申告する先は、亡くなった方の死亡当時の住所地(納税地)の税務署です。相続人が複数いるときは、全員の氏名を記した付表を添えて一通にまとめて出すのが基本ですが、それぞれが別々に出すこともできます。別々に出す場合は、申告した中身を他の相続人に知らせる決まりです。
毎年、不動産所得で確定申告をしていた方なら、その年の分も準確定申告が必要になると考えておくのが自然です。反対に、収入が年金や給与だけで、そもそも確定申告をしなくてよかった方は、準確定申告もいりません。
出典:国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2022.htm
◆ 申告期限は「4か月以内」|相続税よりも早く迎える申告期日
準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日(多くは亡くなった日)の翌日から4か月以内です。この4か月のあいだに、申告と納税の両方をすませます。
見落としやすいのは、相続税の申告期限(10か月)より早いことです。相続税のつもりで構えていると、先に来る4か月を過ぎてしまいます。どちらも起点は同じ「知った日」なので、この4か月のほうを忘れずにおきたいところです。期限の起点の考え方は『相続税の申告期限|孤独死で発覚が遅れても起点は「知った日」』で整理しています。
たとえば3月10日に亡くなったなら、7月10日が準確定申告の期限です。なお、前の年の分を申告しないまま年明けすぐに亡くなった場合は、前年分と本年分の両方を、同じ4か月以内に申告します。期限を過ぎると、本来の所得税に加えて加算税や延滞税がかかることがあります。
◆ 賃貸オーナーの準確定申告|亡くなった日までの家賃を計算するルール
賃貸の準確定申告でつまずきやすいのが、どの月の家賃までを亡くなった方の分に入れるか、です。
不動産所得では、契約で支払日が決まっていれば、その支払日が来た時点で家賃を計上します。実際に入金されたかどうかではありません。そのため準確定申告には、亡くなった日までに支払日が来ていた家賃までを入れます。日ごとに細かく割る必要は、原則ありません。支払日より後に来る家賃は、そのあと物件を引き継ぐ相続人が、自分の確定申告で申告します。
ひとつ注意したいのは、遺産分割が決まるまでのあいだの家賃です。だれが物件を引き継ぐか決まるまでは、その家賃は特定の一人のものにはならず、法定相続分に応じて各相続人に分かれます。分割が決まるまでに入る家賃は、相続人それぞれが自分の取り分だけを確定申告することになります。あとで分割が決まっても、その間の家賃をさかのぼって計算し直すことはありません。
ここで気をつけたいのが、支払日は来ているのに、まだ振り込まれていない家賃です。この未収の家賃も、準確定申告では収入に入れます。そのうえで、同じ家賃が、亡くなった時点で受け取る権利のあるお金として、相続財産(未収金)にもなります。同じ家賃に所得税と相続税の両方が関わって見えますが、所得税はその年の儲けを、相続税は亡くなった時点の財産を見るもので、切り口が違います。
例:毎月末に翌月分の家賃を受け取る契約で、10月16日に亡くなった場合
10月分の家賃(支払日は9月末=到来ずみ)……準確定申告に入れる
※まだ未入金なら、未収家賃として計上し、相続財産にもなる
11月分の家賃(支払日は10月末=まだ先)……引き継いだ相続人の申告へ
必要経費のほうも、亡くなった日までに生じた分が対象です。修繕費や管理費、借入金の利子、その日までの減価償却費などを差し引いて、所得を計算します。
出典:国税庁「No.1376 不動産所得の収入計上時期」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1376.htm
◆ 所得税と相続税の関係|還付金や納める税金が相続財産に与える影響
準確定申告をすると、税金が戻る(還付)ことも、追加で納めることもあります。
還付になる場合、戻ってくる所得税は、もともと亡くなった方が納めすぎていたお金です。これは亡くなった方の財産として、相続財産に含めます(相続税の対象になります)。いっぽう、納める所得税がある場合は、それは亡くなった方が残した債務ですから、相続税を計算するときに財産から差し引けます。準確定申告は、所得税だけの話にとどまらず、相続税ともつながっています。
◆ 手元の契約書と帳簿から早めに準備を
賃貸を営んでいた方の相続では、相続税の10か月より先に、準確定申告の4か月がやってきます。あわてないためには、亡くなった方の帳簿や源泉徴収票、賃貸借契約書、それに家賃の入金の記録を、早めに手元にそろえておくことです。
数字を追う作業は続きますが、どの家賃までが亡くなった方の分で、どこからが引き継ぐ人の分か――その線引きが見えてくれば、残された賃貸の申告も、ひとつずつ形になっていきます。
