── 一度納めた相続税でも、あとから戻ってくることがあります。
相続税の更正の請求とは、納めた相続税が多すぎたときに、正しい額に直して払い過ぎた分を返してもらう手続きです。申告内容の間違いを直すときだけでなく、申告のあとに遺産分割が決まった、遺留分を請求された、といった相続ならではの事情でも使えます。ただし、その事情によって使える期限が大きく変わります。
たとえば、こんなご相談です。
ご相談者は、お父様を亡くされた50代の女性。相続人は、お母様と、ご相談者を含むきょうだい2人です。申告期限の10か月が迫っても、実家をどうするかで話がまとまりません。分け方が決まらないと配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えないため、いったん未分割のまま申告し、これらの軽減を受けずに相続税を納めました。ただし、あとで分けたときに使えるよう、必要な書類は添えてあります。
それから1年ほどして、ようやく分け方が決まりました。実家はお母様が引き継ぐ形です。これで配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も使え、未分割のときに軽減なしで納めた相続税は戻ってくるはず——そこまでは、ご相談者も聞いていました。気がかりだったのは、その先です。「戻してもらうには、こちらから手続きが必要なんですよね。いつまでにやればいいんでしょうか」。
その期限は、分け方が決まった日の翌日から4か月です。過ぎてしまうと、戻せたはずのお金は戻りません。順を追って見ていきます。
◆ 更正の請求とは?払い過ぎた相続税を正しい額に直して返してもらう手続き
相続税の申告は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に行います。申告期限については、『相続税の申告期限|孤独死で発覚が遅れても起点は「知った日」』で触れています。その計算に誤りがあれば、本来より多く納めてしまうことになります。そのまま気づかずにいると、払い過ぎた分は戻りません。これを取り戻すための手続きが「更正の請求」です。
反対に、あとから税額が足りないと分かったときは「修正申告」で不足分を納めます。更正の請求は税金が戻る側、修正申告は追加で納める側です。
更正の請求は、書類を出せば必ず認められるものではありません。税務署が内容を確かめ、「たしかに払い過ぎている」と判断してはじめて還付されます。だからこそ、なぜ税額が変わるのかを示す資料をきちんとそろえることが大切になります。
◆ 更正の請求の期限は?通常は申告期限から5年、相続特有の事情は4か月
更正の請求で最も注意したいのが、期限です。実は、期限には性格の違う2つがあります。
ひとつは、通常の更正の請求です。計算の誤りや、差し引けるはずの借入金・葬式費用の計上もれなどで相続税を払い過ぎていた、という場合で、期限は申告期限から5年。相続税の申告期限は亡くなったことを知った日の翌日から10か月なので、亡くなった日から数えれば5年10か月ということになります。かつてはこの期間が1年しかなく、気づいたときには手遅れ、ということが少なくありませんでした。いまは5年に延び、ずいぶん救われる場面が増えています。
もうひとつが、相続ならではの事情による更正の請求です。申告のあとに遺産分割が決まった、あるいは遺留分を請求された——こうした「あとから起きた事情」で税額が下がる場合です。この場合の期限は、その事情が起きたことを知った日の翌日から4か月。ポイントは、通常の5年10か月を過ぎたあとで事情が変わっても、そこから4か月以内なら請求できることです。ただ、その4か月はとても短いので、すぐ動くことが大切です。
更正の請求の2つの期限
◎通常の更正の請求(計算の誤り・控除のもれなど)
- 期限は、申告期限から5年
- 亡くなった日から数えると5年10か月
◎相続特有の事情による更正の請求(あとから分割が決まった・遺留分など)
- 期限は、その事情が起きたことを知った日の翌日から4か月
- 5年10か月を過ぎていてもできる。ただし4か月は短いので、すぐ動く
出典:国税庁「相続税及び贈与税の更正の請求手続」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/1585-10.htm
◆ 未分割のまま相続税を申告したとき|遺産分割が決まれば特例で税金が戻る
実務でいちばん多いのが、冒頭のご相談のように、申告期限までに分け方が決まらなかったケースです。
分け方が決まっていないと、配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も使えません。これらは「誰がその財産を引き継ぐか」が決まって使える特例だからです。そこで、期限までに分けられないときは、未分割のまま申告します。ひとまず法定相続分で取得したものとして計算し、特例による減額のない税額を納めるのです。
ここで大切なのが、そのときに「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を添えておくことです。これは「いまはまだ分けられませんが、分けたら特例を使います」という意思表示のための書類で、これを付けておかないと、あとで分割が決まっても特例をさかのぼって使えなくなってしまいます。
とくに小規模宅地等の特例は、当初の申告で使っておくか、この分割見込書で道を残しておくかのどちらかが必要で、当初の申告で使い忘れていたと、あとで気づいても取り戻せません。この特例については、『小規模宅地等の特例とは?自宅の土地は330㎡まで8割減、相続税ゼロでも申告は必要』で触れています。
分割見込書を添えておけば、申告期限から3年以内に分け方が決まったときに特例が使えます。そして、その分割が決まった日の翌日から4か月以内に更正の請求をすれば、払い過ぎた税金が戻ってきます。冒頭のご相談も、まさにこの流れにあたります。
出典:国税庁「No.4208 相続財産が分割されていないときの申告」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4208_qa.htm
◆ ほかにも相続税が戻ってくるケース|遺留分の支払いや新しい遺言書の発見
分割が決まったとき以外にも、相続ならではの事情で税額が動くことがあります。
たとえば、遺留分。偏った遺言で多くを受け取った人が、あとから遺留分を請求されてお金を渡すと、その人の財産は減ります。この場合、渡した側は更正の請求で税金を取り戻せます。反対に、遺留分を受け取った側は財産が増えるので、修正申告で足りない分を納めます。ひとつの相続のなかで、減る人と増える人が同時に生まれるわけです。遺留分そのもののしくみは、『遺言と遺留分|偏った遺言でも相続人の最低限の取り分は守られる』でまとめています。
このほか、申告のあとに新しい遺言書が見つかって分け方が変わったときも、税額が下がる人は更正の請求ができます。いずれも、その事情を知った日の翌日から4か月以内、という短い期限で動くことになります。
◆ 払い過ぎた相続税は自動では戻らない。正しい手続きで家族の負担を軽く
更正の請求は、必要な書類をそろえて税務署に出します。分け方が決まったのなら遺産分割協議書、というように、税額が下がる理由を示すものを添えます。認められれば、払い過ぎた分が還付されます。
気をつけたいのは、やはり期限です。とくに相続特有の事情による4か月は短く、分け方が決まってほっとしているうちに過ぎてしまいがちです。払い過ぎたお金は、黙っていても戻ってはきません。こちらから請求してはじめて、戻ってきます。
相続税の手続きは、申告して納めれば、それで一段落します。ただ、あとから分け方や事情が変わって、税額が動くこともあります。この手続きを知っていれば、払い過ぎたお金をそのままにせず、ご家族が余分な負担を抱えずにすみます。
