── 受け取った全額に、そのまま相続税がかかるわけではありません。
死亡退職金は、会社などに勤めていた方が亡くなったときに、勤務先から遺族へ支払われる退職金です。相続税の対象になりますが、500万円に法定相続人の数をかけた金額までは税金がかからない「非課税枠」があります。弔慰金も支給されることがあり、こちらは一定額まで非課税ですが、それを超えた分は死亡退職金として扱われます。
たとえば、こんなご相談があったとします。
ご相談者は、40代の会社員だったご主人を、突然亡くされた奥様。ご主人が亡くなったあと、勤務先から「死亡退職金」と「弔慰金」がまとめて振り込まれました。幼いお子さんを抱えるこれからの暮らしにとって、ありがたいお金です。ただ、思っていたよりまとまった額だったこともあり、税金のことがふと気になったそうです。
「退職金にも相続税がかかるんでしょうか。弔慰金のほうも、同じように税金がかかるのか気になって……」
――そう戸惑われるのも、無理のないことです。死亡退職金と弔慰金は、どちらも勤務先から遺族へ支払われるお金ですが、税の扱いは分かれます。まずは死亡退職金のほうから、順番に見ていきましょう。
◆ 死亡退職金にも相続税はかかる?|「みなし相続財産」として扱われる理由
死亡退職金は、本来なら働いてきた本人に支払われるはずの退職金を、亡くなったために、ご遺族が代わりに受け取るものです。亡くなった方が生前に手にしたお金ではありませんから、預金や不動産のように、もともと持っていた相続財産ではありません。それでも、亡くなったことをきっかけに家族へ入るお金なので、相続税では相続財産とみなして課税の対象にします。これを「みなし相続財産」と呼びます。生命保険金と同じ考え方で、詳しくは『生命保険金に相続税はかかる? 非課税枠と、受け取る人で変わる扱い』で整理しています。
対象になるのは、亡くなってから3年以内に金額が確定したものです。「退職金」「功労金」といった名目は問いません。実質的に退職金にあたるものであれば、品物などの現物で受け取った場合も含まれます。
誰が受け取るかは、勤務先の退職金規程で決まっていることが多く、そこで定められた人へ直接支払われます。たいていは配偶者やお子さんです。そして、その受け取った人が相続人にあたるかどうかで、次に見る非課税枠を使えるかどうかが変わります。
◆ 死亡退職金の「非課税枠」とは?|500万円 × 法定相続人の数
課税の対象になるとはいえ、その全額に税金がかかるわけではありません。遺された家族の暮らしを支えるお金だという趣旨から、一定額までは相続税がかからないようになっています。
500万円 × 法定相続人の数 = 非課税枠
たとえば相続人が3人なら、1,500万円までは相続税がかかりません。
ここで大切なのは、この非課税枠が、生命保険金の非課税枠とは完全に別ものだという点です。生命保険金には生命保険金の、死亡退職金には死亡退職金の枠が、それぞれ500万円 × 法定相続人で用意されています。2つを足して1つの大きな枠にすることも、片方で余った枠をもう片方に回すこともできません。それぞれの枠は、その種類のお金にしか使えないのです。そのぶん、保険金の枠を使い切っていても、死亡退職金の枠はそのまま残ります。
法定相続人の数え方は、相続を放棄した人がいても、その放棄がなかったものとして数えます。誰が相続人にあたるか、その数え方は『法定相続人とは?誰が相続人になるか|順位と法定相続分の基本』で整理しています。受け取る人が複数いるときは、この非課税枠を、それぞれの受取額の割合で分け合います。
出典:国税庁「No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4117.htm
◆ 相続放棄をした人や兄弟姉妹|受取人によって変わる非課税枠と注意点
非課税枠を使えるのは、相続人が受け取った分に限られます。たとえば、相続を放棄した人が受け取った死亡退職金には、この枠は使えません。退職金規程で受け取る人に定められていれば、放棄をしても死亡退職金そのものは受け取れますが、相続人ではなくなっているため、受け取った額がそのまま課税の対象になります。
まぎらわしいのは、枠の計算に使う「法定相続人の数」には、放棄をした人も数に入れる点です。枠の総額そのものは変わらないのに、その枠を使えるのは放棄をしなかった相続人だけ——ここが取り違えやすいところです。
また、受け取った人が、亡くなった方の配偶者・子ども・親のいずれでもないときは、相続税額が2割増える「2割加算」の対象になります。たとえば、亡くなった方のご兄弟が受け取るような場合です。対象になる人の範囲は『相続税が2割高くなる人とは?2割加算の対象と、孫の扱い』でまとめています。
◆ 弔慰金は退職金とどう違う?|非課税になる限度額と合算の計算方法
弔慰金は、亡くなったことへのお悔やみとして支給されるお金です。お悔やみのお金なので、一定の金額までは相続税がかかりません。いくらまで非課税になるかは、亡くなり方によって変わります。
- 業務上の死亡(仕事中の事故など)……亡くなった当時の給与の3年分まで
- 業務以外の死亡……給与の半年分まで
この範囲を超えた分は、弔慰金ではなく死亡退職金として扱われ、死亡退職金と合わせて非課税枠(500万円 × 法定相続人)で判断します。ここでいう給与は、基本給に扶養手当や勤務地手当などを加えた、毎月の給与のことです。なお、名前は弔慰金でも、中身が実際には退職金とみなされるお金は、金額に関係なく退職金として課税されます。
例:死亡退職金2,400万円に加えて、弔慰金300万円も受け取った場合(相続人3人、月給40万円、業務以外の死亡)
まず、弔慰金のうち、非課税になる範囲を計算します。
40万円 × 6か月分 = 240万円
この240万円には、相続税がかかりません。
これを超えた分は、退職金として死亡退職金に合わせます。
300万円 - 240万円 = 60万円
死亡退職金2,400万円 + 60万円 = 2,460万円
この2,460万円から、非課税額を差し引きます。
非課税額 500万円 × 3人 = 1,500万円
2,460万円 - 1,500万円 = 960万円
相続税の対象になるのは、この2,460万円のうちの960万円です。
出典:国税庁「No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4120.htm
◆ 支給までに時間がかかったとき|亡くなってから3年を過ぎて確定した場合の税金
死亡退職金が相続税の対象になるのは、亡くなってから3年以内に金額が確定したものです。会社の事情などで確定が遅れ、3年を過ぎてから決まった場合は、相続税ではなく、受け取った人の所得税(一時所得)の対象に変わります。
見るのは、実際に振り込まれた日ではなく、金額が確定した時点です。3年以内に確定していれば、受け取りが後になっても相続税のまま扱います。
死亡退職金も弔慰金も、残された家族の暮らしを支えるために用意されたお金です。まずは、勤務先の規定と、支払いの案内に書かれた内訳を確かめておきましょう。退職金と弔慰金の区別も、相続税の対象になる金額も、そこから見えてきます。
