── 幼いお子さんほど、控除は大きくなります。
相続税の未成年者控除は、相続人が18歳未満のとき、その相続税額から一定の金額を直接差し引ける制度です。控除額は、18歳になるまでの年数が長いほど大きくなり、年齢の低いお子さんほど手厚くなります。財産を受け継いだお子さんに相続税がかかる場合でも、この控除で税額が抑えられ、ゼロになることもあります。
たとえば、こんなご相談があったとします。
ご相談者は、ご主人を亡くされた40代の奥様。相続人は、奥様と、成人した長女、それに10歳になる長男の三人です。ご主人が残した財産には相続税がかかりますが、奥様ご自身には配偶者の税額軽減があり、相続税はかかりません。気がかりなのは、まだ幼い長男のほうでした。長女と長男、それぞれの取り分に相続税が出そうだと聞き、とりわけ小学生の子にまで税がかかることに、奥様は戸惑いを覚えます。
「まだ小学生の子にも、相続税がかかるんですね。幼い子の負担を、少しでも軽くしてやれないものでしょうか」
相続税には、未成年の相続人の負担をやわらげる未成年者控除があります。長男が対象になるのか、いくら引けるのか、順番に見ていきます。
◆ 未成年者控除の適用条件|法定相続人にあたる18歳未満の子どもが対象
未成年者控除は、税額控除の一つです。財産の評価額を下げるのではなく、計算して出てきた相続税額そのものから直接差し引くので、控除した金額の分だけ、納める相続税が減ります。
受けられるのは、次のすべてに当てはまるお子さんです。
- 財産を受け取ったときに、日本国内に住所があること
- 財産を受け取ったときに、18歳未満であること
- 法定相続人であること
このうち引っかかりやすいのが、3つ目の「法定相続人であること」です。18歳未満でありさえすれば使える、というわけではありません。たとえば、祖父母が遺言で幼い孫に財産を遺したとしても、その孫が相続人にあたらなければ、この控除は使えないのです。そもそも誰が相続人になるのかは、『法定相続人とは?誰が相続人になるか|順位と法定相続分の基本』で整理しています。
◆ 未成年者控除額の計算方法|18歳までの年数と引ききれない分の家族への引き継ぎ
控除額の求め方はシンプルです。満18歳になるまでの年数に、1年あたり10万円をかけます。(18 − 相続開始時の年齢)× 10万円、と考えれば分かりやすいでしょう。年数に1年未満の端数が出たときは、切り上げて1年と数えます。たとえば相続が起きたときに7歳4か月なら、18歳まで10年8か月を切り上げて11年、控除額は110万円です。
年齢が低いお子さんほど、18歳までの年数は長く、控除も大きくなります。
控除額 = (18 − 相続開始時の年齢)× 10万円
- 生まれてまもない子 …… 180万円(18年分)
- 10歳のお子さん …… 80万円
- 17歳のお子さん …… 10万円
お子さんの相続税がこの控除の額に収まれば、控除だけで税額はゼロになります。年齢の低いうちは、それだけで納税がなくなることも珍しくありません。
控除額のほうがお子さん本人の相続税より大きく、引ききれないこともあります。その余った分は、消えるわけではありません。お子さんの扶養義務者(親やきょうだいなど、3親等内の一定の親族)のうち、同じ相続で相続税を納める人がいれば、その人の税額から差し引けます。
冒頭のケースでいえば、10歳の長男の控除額は80万円。長男自身の相続税が30万円なら、控除で0円になり、引ききれない50万円は、扶養義務者にあたる長女の相続税から差し引けます。母である奥様も扶養義務者ですが、配偶者の税額軽減で相続税がかからないため、引き継ぎ先になるのは、実際に税を納める長女のほうです。
出典:国税庁「No.4164 未成年者の税額控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4164.htm
◆ 未成年の相続手続き|親と子がともに相続人のときは特別代理人を選ぶ
控除の話とは別に、未成年のお子さんが相続人になるときは、手続きの面でも気をつけたいことがあります。未成年のお子さんは、遺産の分け方を決める話し合い(遺産分割協議)に、自分ひとりで加わることができません。通常は親が代わりに手続きを進めますが、その親自身も同じ相続の相続人であるときは、親子で取り分を分け合う間柄になり、親が子の代理を務められなくなります。
このようなときは、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらい、その人がお子さんに代わって話し合いに加わります。特別代理人には、親族がなることもあれば、弁護士などの専門家に依頼して引き受けてもらうこともできます。控除とは直接つながらない手続きですが、未成年のお子さんがいる相続では避けて通れないところです。控除のことと一緒に、早めに知っておきたい点です。
◆ 未成年者控除と申告の要否|税額がゼロになった場合の扱いと注意点
未成年者控除を使ってお子さんの相続税がゼロになり、他に納税する相続人もいなければ、相続税の申告そのものは要りません。この控除は、申告することを条件にはしていないためです。
まぎらわしいのが、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例との違いです。これらは、たとえ税額がゼロになるとしても、その特例を使うこと自体に申告が必要です。同じ「納税額ゼロ」でも、申告のいる・いらないが分かれ、未成年者控除は、いらない側にあたります。
申告がいらなかった場合でも、その相続で使った控除額は、書き留めておくと安心です。同じお子さんが、大きくなる前にもう一度別の相続で相続人になったとき、前に使った分だけ、次に使える控除が少なくなるからです。記録がないと、その差し引きで手間取ることになります。なお、お子さんの税額がゼロでも、他に相続税を納める家族がいれば、その人には申告が必要です。ひとつの相続でも、申告のいる人といらない人が出てくることがあります。
未成年者控除は、家族を亡くしたお子さんが、これからの暮らしや学びを続けていけるようにという願いから設けられた控除です。額が大きい分、気づかずにいると、相続税をそのまま払いすぎてしまいます。お子さんの年齢と、相続人にあたるかどうか。そこを一度確かめておくことが、残されたお子さんの手元に、少しでも多くを残すことにつながります。
