相続税の障害者控除とは?対象者の条件・計算方法と申告の要否

目次

── 使えるのは、ご本人だけとは限りません。

相続税の障害者控除は、相続人に障害のある方がいるとき、その相続税額から一定の金額を直接差し引ける制度です。控除額が本人の相続税より大きければ、引ききれない分を、きょうだいなど、ほかの相続人の税額からも差し引けます。障害のあるご本人だけでなく、いっしょに相続するご家族の相続税にも関わってきます。

たとえば、こんなご相談があったとします。

ご相談者は、お母様を亡くされた40代の長男。相続人は、ご相談者と障害のある弟さんのお二人です。弟さんは身体障害者手帳をお持ちで、これまでもご相談者が何かと支えてこられました。お母様の遺産は相続税がかかる規模で、二人ともいくらか納めることになりそうです。ご相談者が気にかけているのは、弟さんの負担のほうでした。

「弟の分の相続税は、少しでも軽くならないものでしょうか。障害があることは、税金の面で考えてもらえたりするのでしょうか」

相続税には、障害のある相続人の負担をやわらげるための障害者控除があります。弟さんが対象になるのか、いくら引けるのか、そしてご相談者ご自身にも関わってくるのか、順番に見ていきます。

◆ 障害者控除の適用条件|法定相続人にあたる障害者が対象になる

障害者控除は、相続税を計算した最後の段階で、出てきた税額そのものから引く控除です。財産の評価額を下げるのではなく、算出された税額から直接マイナスするため、負担を軽くする力が大きいのが特徴です。

対象になるのは、次のすべてに当てはまる人です。

  • 財産を受け取ったときに、日本国内に住所があること
  • 財産を受け取ったときに、障害者であること
  • 法定相続人であること

3つ目の「法定相続人であること」は、見落とされやすい条件です。たとえば、遺言で財産をもらった人でも、法定相続人でなければ、障害があってもこの控除は使えません。相続人にあたらないお孫さんなども同じです。使えるのは、あくまで法定相続人にあたる方です。誰が法定相続人になるのかは、『法定相続人とは?誰が相続人になるか|順位と法定相続分の基本』で整理しています。

もう一つ取り違えやすいのは、あくまで「相続人」が障害者の場合という点です。亡くなった方に障害があっても、この控除は関係しません。控除を受けるのは、財産を受け取る側の、障害のある相続人です。

◆ 障害者控除額の計算方法|障害の区分と85歳までの年数で決まる

控除額は、障害の区分とその方の年齢で決まります。

まず、障害者は次の2つに分かれます。特別障害者は、より重い区分です。

  • 一般障害者……身体障害者手帳の3〜6級、精神障害者保健福祉手帳の2級・3級、中軽度の知的障害と判定された方など
  • 特別障害者……身体障害者手帳の1級・2級、精神障害者保健福祉手帳の1級、重度の知的障害と判定された方、いつも病床にいて複雑な介護を受けている方など

そのうえで、控除額は次のように計算します。一般障害者は(85 − 相続開始時の年齢)× 10万円、特別障害者はその倍の20万円をかけた額です。年数を数えるとき、1年に満たない端数は切り上げて1年とします。

たとえば相続が起きたときに51歳8か月なら、85歳まで33年4か月ですが、切り上げて34年。一般障害者なら340万円が控除額です。若い方ほど、また特別障害者ほど、控除額は大きくなります。相続税の額によっては、この控除だけで税額がゼロになることも珍しくありません。

◆ 引ききれない控除額の扱い|扶養義務者である家族の相続税から差し引く

障害者控除の額が、本人の相続税より大きいことがあります。このとき、本人の税額はゼロになり、控除が余ります。余った分は、そのまま消えるわけではありません。障害のある方の扶養義務者にあたる人がいれば、その人の相続税から差し引けます。

扶養義務者とは、配偶者、親子などの直系血族、きょうだい、それに3親等内の親族のうち一定の人をいいます。実際に生活の面倒を見ていなくても、戸籍のうえで扶養義務者にあたれば、この引き継ぎは使えます。

冒頭の弟さんのケースで見てみます。

たとえば、弟さん(50歳・一般障害者)の控除額は
 (85 − 50)× 10万円 = 350万円

弟さん自身の相続税が200万円なら、まず全額が消えて0円に。引ききれずに残った150万円は、きょうだいであるご相談者(扶養義務者)の相続税から差し引けます。

このように、障害者控除は本人だけで完結する話ではありません。家族が納める相続税の合計に関わってきます。ご相談者が「自分には関係のない話」と思い込んで見過ごすと、そのぶん納めすぎになってしまいます。

出典:国税庁「No.4167 障害者の税額控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4167.htm

◆ 障害者控除と申告の要否|税額がゼロになった場合の申告と記録の残し方

障害者控除で本人の税額がゼロになり、ほかに納める相続人もいなければ、相続税の申告そのものが要りません。障害者控除には、それを使うための申告という条件が付いていないためです。

ここは、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例と違うところです。これらの特例は、たとえ税額がゼロになるとしても、使うこと自体に申告が必要です。同じ「税額がゼロ」でも、申告がいるものといらないものがあり、混同しやすい点です。

ただし、申告がいらなかった場合でも、使った控除額は控えておきたいところです。同じ方が、次の相続でもまた相続人になったときには、前に使った分だけ、使える控除が少なくなります。前回いくら使ったかが分からないと、その計算で困ってしまうからです。

また、障害者控除で一部の相続人がゼロになっても、ほかに納税額のある相続人がいれば、その人には申告が必要です。同じ相続でも、人によって申告の要否が分かれることがあります。

この控除は、障害のある方のこれからの暮らしを見すえて設けられています。控除できる額が大きいだけに、使えることに気づかないと、その分だけ相続税を多く納めてしまいます。手帳の区分と年齢、そして誰が相続人になるのか。この3つを一つずつ確かめていけば、控除が使えるか、いくらになるかが、見えてきます。

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