特定贈与財産とは?生前贈与加算の例外で配偶者の自宅が持ち戻されないケース

目次

── 生前に贈与した自宅が、まるごと相続財産に戻るとは限りません。

特定贈与財産は、夫婦の間で贈与した居住用不動産のうち、贈与税の配偶者控除を受けた最高2,000万円までの部分をいいます。生前贈与は亡くなる前の一定期間内のものだと相続財産に持ち戻されますが、この部分は持ち戻されず、贈与した自宅は渡したかたちのまま残ります。

たとえば、こんなご相談があったとします。

ご相談者は、ご主人を亡くされたばかりの60代の奥様。結婚して30年になります。数年前、ご主人から自宅の持分を贈与してもらい、おしどり贈与と呼ばれる贈与税の配偶者控除を使ったので、贈与税はかかりませんでした。ところが、ご主人が亡くなって相続税の話になり、亡くなる前の何年か以内に受けた生前贈与は相続財産に持ち戻される、と耳にします。

「あのとき贈与してもらった自宅も、また相続財産に持ち戻されて、相続税がかかるのでしょうか」

――そう案じられるのも、無理のないことです。配偶者への居住用不動産の贈与には、持ち戻しの例外として、特定贈与財産という扱いがあります。奥様の自宅がこれにあたるのか、順番に見ていきます。

◆ 特定贈与財産とは|生前贈与加算の対象外となる配偶者への自宅贈与

亡くなった方から生前に受けた贈与は、亡くなる前の一定期間内のものだと、相続財産に持ち戻して相続税を計算します。これを生前贈与加算といいます。持ち戻しの対象になる期間は、いまは最長で7年です。亡くなる間際の贈与で相続税を軽くすることを防ぐための扱いで、詳しくは『暦年課税とは?年110万円の基礎控除と生前贈与加算』で説明しています。

この持ち戻しには、いくつかの例外があります。その一つが、夫婦の間で居住用の不動産を贈与し、贈与税の配偶者控除を受けた部分です。配偶者控除の額に相当する金額、最高2,000万円までは、亡くなる前7年以内の贈与でも相続財産に持ち戻されません。この持ち戻さない部分を、特定贈与財産と呼びます。

持ち戻されると、その分だけ相続税のかかる財産が増えます。特定贈与財産にあたれば、贈与した自宅はそこに戻らず、配偶者に渡したまま相続を迎えられます。

名前の似た言葉に特例贈与財産がありますが、こちらは親や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与にかかる、贈与税の税率の話です。特定贈与財産とは別のことがらなので、混同しないよう気をつけてください。

◆ 配偶者控除(おしどり贈与)の要件|婚姻20年以上の夫婦による居住用不動産の贈与

特定贈与財産になるのは、贈与税の配偶者控除を使った贈与です。この控除は、長年連れ添った夫婦の間で使えることから、おしどり贈与とも呼ばれます。控除を受けられるのは、次のすべてに当てはまる贈与です。

  • 贈与した時点で、夫婦の婚姻期間が20年を過ぎていること
  • 贈与された財産が、居住用の不動産か、それを買うためのお金であること
  • 贈与を受けた翌年の3月15日までにその家に住み、その後も住み続ける見込みであること

この控除を使うと、贈与税の基礎控除110万円とは別に、最高2,000万円まで贈与税がかかりません。あわせて2,110万円までの居住用不動産を、贈与税なしで配偶者に渡せます。ただし、同じ配偶者からの贈与では、一生に一度しか使えません。

そして、この配偶者控除を受けるには、贈与税の申告が必要です。控除を使って贈与税がゼロになる場合でも、戸籍謄本や登記事項証明書などをそえて申告して、はじめて受けられます。

出典:国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm

◆ 贈与と同じ年に亡くなった場合の手続き|贈与税申告が必要になる

気をつけたいのが、配偶者に居住用不動産を贈与した、その同じ年に、贈与した人が亡くなった場合です。

亡くなった年に受けた贈与は、本来、まるごと相続財産に持ち戻します。贈与税ではなく相続税のほうで計算する、という扱いです。ところが、その年の贈与が配偶者への居住用不動産で、婚姻20年以上など配偶者控除の要件を満たしていれば、配偶者控除に相当する部分(最高2,000万円)は特定贈与財産として、相続財産に持ち戻されません。

このとき、持ち戻さない部分については、贈与税の申告をすることになります。相続のあった年でも、その部分は贈与税で扱い、配偶者控除を使って贈与税をゼロにする、という流れです。申告をしないと、この扱いは受けられません。

出典:国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm

◆ 注意点と他の制度との違い|配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例との兼ね合い

まぎらわしいのが、配偶者の税額軽減との違いです。配偶者の税額軽減は、相続で配偶者が財産を受け継いだときに相続税を大きく抑える制度で、こちらは相続税の話。特定贈与財産のほうは、生前に贈与を受けたときに使う贈与税の配偶者控除の話です。名前は似ていても、使う場面が違います。配偶者の税額軽減については『配偶者の税額軽減|二次相続まで考えないと子の税負担が増える理由』で取り上げています。

なお、配偶者控除の要件を満たさない贈与は、特定贈与財産になりません。婚姻期間が20年に満たない、贈与したのが居住用不動産ではない、といった贈与は、亡くなる前7年以内であれば、相続財産へ持ち戻されます。配偶者控除の枠を超えて、2,000万円を上回る部分を贈与したときも、その上回った部分は特定贈与財産にはあたりません。

気に留めておきたいのが、小規模宅地等の特例との兼ね合いです。自宅を生前に贈与してしまうと、相続まで持っていれば居住用の宅地に使えたはずのこの特例が、その自宅には使えなくなります。配偶者には相続のときの税額軽減もあるので、贈与と相続、どちらで渡すかを見比べておくと安心です。小規模宅地等の特例は『小規模宅地等の特例とは?自宅の土地は330㎡まで8割減|相続税ゼロでも申告は必要』で取り上げています。

長年連れ添った相手に、住まいを生前のうちに渡しておく。配偶者控除を使ったその贈与は、あとで相続があっても、相続財産には戻ってきません。渡したときのかたちのまま、配偶者の手元に残ります。特定贈与財産は、そうして配偶者に残した住まいを、相続のときにも守る扱いです。

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