── 「毎年110万円まで」の、正しい活かし方
暦年課税は、1年間にもらった財産のうち110万円までは贈与税がかからず、超えた分にだけ税金がかかります。納めるのは、財産をもらった側。税率は、誰から誰への贈与かによって変わります。そして見落としがちなのが、亡くなる前の一定期間の贈与は相続財産に足し戻される、という点です。ここが、暦年課税を使う上での大事なポイントになります。
たとえば、こんなご相談があったとします。
ご相談者は、72歳の女性。ご主人を早くに亡くされてからは、ご自宅でお一人で、元気に暮らしてこられました。子どもは2人、孫も何人かいます。年齢のことを少しずつ意識するようになり、「元気で、頭のはっきりしているうちに、少しずつでも子や孫に渡しておきたい」と思うようになりました。
けれど、いざ渡すとなると、税金のことがよく分からず、なかなか一歩を踏み出せずにいました。
自分なりに調べてはみたものの、かえって迷いが深くなってしまったそうです。「毎年110万円までなら贈与税がかからない、と本には書いてありました。でも、亡くなる前の何年かは、結局その分も相続税に足し戻されるとも書いてあって……。それなら、いま渡す意味はあるのでしょうか」――そう、少し困った表情でおっしゃいました。
まずは、暦年課税の仕組みから、順番に見ていきましょう。
◆ 暦年課税とは?毎年110万円までは贈与税がかからない
贈与にかかる税金(贈与税)には、暦年課税と相続時精算課税という2つの課税方法があります。特別な手続きをしなければ、贈与税は暦年課税で計算されます。多くの人が思い浮かべる贈与税は、この暦年課税です。
暦年課税では、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産を合計します。そこから基礎控除の110万円を引き、残った金額に税金がかかります。1年間の合計が110万円以下なら、贈与税はかからず、申告もいりません。
もうひとつの相続時精算課税は、まとまった額を先に渡したいときに、税務署へ届け出て使う制度です。こちらは『相続時精算課税とは?2,500万円まで先に渡し、相続のときに精算する』でくわしく説明しています。
◆ 110万円の枠は「もらう人ごと」|複数の人からもらうと合算される
気をつけたいのは、この110万円が「もらう人ごと」の枠だということ。あげる人ごとではありません。
たとえばお子さんが、同じ年にお父様から100万円、お母様から100万円をもらうと、合わせて200万円をもらったことになり、110万円を超えた分に税金がかかります。「一人ひとりから110万円以内だから、税金はかからない」とはならないので、ここは勘違いしやすいところです。
反対に、一人の人が複数の子や孫へ110万円ずつ渡していくのは問題ありません。枠はもらう人ごとなので、子や孫のそれぞれが1年で110万円までに収まっていればよいのです。渡す相手が多いほど、暦年課税は使いやすくなります。
◆ 贈与税の税率は2種類|「誰から誰へ渡すか」で税額が変わる
110万円を超えた分にかかる税率は、渡す相手によって2種類に分かれます。
親や祖父母から、その年の1月1日に18歳以上になっている子や孫へ渡す場合は、低いほうの税率(特例税率)。夫婦のあいだや兄弟のあいだ、18歳未満の子への贈与などは、少し高いほうの税率(一般税率)です。同じ金額でも、親や祖父母から18歳以上の子・孫への贈与のほうが、負担は軽くなります。
税率と控除額は、下の税率表のとおりです。110万円を引いたあとの金額を当てはめ、「その金額 × 税率 − 控除額」で贈与税額を計算します。
特例税率(親・祖父母から、その年1月1日に18歳以上の子・孫へ渡す場合)
| 110万円を引いたあとの金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | なし |
| 400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
一般税率(夫婦間・兄弟間・18歳未満の子への贈与など)
| 110万円を引いたあとの金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | なし |
| 300万円以下 | 15% | 10万円 |
| 400万円以下 | 20% | 25万円 |
| 600万円以下 | 30% | 65万円 |
| 1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
| 1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
| 3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
| 3,000万円超 | 55% | 400万円 |
いずれも「110万円を引いたあとの金額」で見ます。なお、この金額が300万円以下までは、特例税率と一般税率は同じです。
たとえば、18歳以上の子が、親から1年間で500万円をもらったとします。110万円を引いた390万円が計算のもとで、特例税率だと15%・控除10万円。子が納める贈与税は48万5,000円です。同じ500万円でも、兄弟からもらった場合は一般税率になり、「400万円以下」で20%・控除25万円。こちらは53万円です。同じ金額でも、誰からもらうかで税額が変わります。
110万円を超えて贈与を受けた年は、その翌年の2月1日から3月15日までに、もらった人が申告と納税をします。
出典:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
◆ 亡くなる前の贈与は相続財産に戻る?「7年への延長」と注意点
暦年課税には、ひとつ注意点があります。毎年こつこつ渡していても、渡した人が亡くなると、その贈与の一部が相続財産に足し戻されることがあるのです。これを生前贈与加算といいます。亡くなる直前にまとめて贈与して相続税を軽くする、といったことを防ぐためです。
この足し戻しの対象になる期間は、これまで「亡くなる前の3年間」でした。それが、いま「7年間」へと少しずつ延ばされているところです。すぐに7年になるわけではなく、これから何年かかけて、対象の期間がだんだん長くなっていきます。細かい年数はともかく、亡くなる前の数年間に渡した分は相続税の計算に含める、というのは押さえておいてください。
冒頭のご相談者は、「いま渡しても意味がないのでは」と迷っておられましたが、意味はあります。早めに始めて長く続けるほど、足し戻しの対象から外れる贈与が増えていくからです。
なお、足し戻されるのは、相続でその人の財産を受け取った人への贈与です。相続人にならないお孫さんなど、相続で財産を受け取らない人への贈与は、原則この足し戻しには入りません。ただし、そのお孫さんが遺言で財産をもらったり、生命保険金を受け取ったりすると、対象に入ってきます。
出典:国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
◆ 暦年課税での生前贈与が向いているのは、どんな人?
ここまでをまとめると、暦年課税は、こんな渡し方に向いています。
- 毎年少しずつ、長い時間をかけて渡していける
- 早めに始められる(亡くなる前の数年分は戻ってしまうため、早いほど有利)
- 子だけでなく、相続人にならない孫などにも渡したい
反対に、「まとまった額を、いちど早めに渡しておきたい」「これから値上がりしそうな財産を、いまのうちに渡したい」という場合は、もうひとつの相続時精算課税のほうが合うこともあります。2つの違いと、どちらがご家庭に合うのかは、『暦年課税と相続時精算課税、どっちを選ぶ?違いと選び方』で比較して説明しています。
◆ 暦年課税を上手に活かして、大切な家族へつなぐ
暦年課税は、特別な手続きのいらない、手軽な贈与の方法です。ただ、渡すときに大切なのは、「渡した」という事実を、きちんと形に残しておくことです。口約束や、名義だけ子や孫にした預金では、渡したことにならず、相続のときに亡くなった方の財産とみなされてしまうことがあるからです。名義だけの預金がなぜ相続財産になるのかは、『名義預金とは?配偶者や子・孫の名義でも相続税がかかる理由』で触れています。
贈与は、財産を渡すだけの手続きではありません。元気なうちに、自分の手で、大切な人へ。その気持ちを形にできるのが、生前贈与という選択です。
