暦年課税と相続時精算課税はどっちを選ぶ?違いと選び方の基準

目次

── どちらが得か、は「いくら・いつまで・何を渡すか」で変わります

暦年課税と相続時精算課税は、生前贈与にかかる贈与税の2つの課税方法です。どちらも年110万円までは贈与税がかかりませんが、相続が起きたときの扱いが違うため、選び方しだいで手元に残る額が変わります。一度こちらと決めると、あとから戻せない選択もあるので、はじめに向き・不向きを知っておくと迷いにくくなります。

たとえば、こんなご相談があったとします。

ご相談者は、80代のお母様のこれからを考えはじめた50代の方。お母様はお元気で、「動けるうちに、少しずつでも子や孫に渡しておきたい」と話されているそうです。ただ、渡し方に2つのやり方があると聞いて、迷っていらっしゃいました。

毎年少しずつ贈っていくやり方と、まとまった額を先に渡しておくやり方。名前を見ただけでは違いがわからず、「どちらがうちに合うのか、決め手がつかめなくて」とおっしゃいます。

まずは、2つのやり方が何を指すのか、順番に見ていきましょう。

◆ 暦年課税とは?1年ごとに110万円まで贈与税がかからない

暦年課税は、1年間にもらった財産から基礎控除の110万円を引き、残った分に贈与税がかかる方法です。特別な手続きはいりません。ただし、亡くなる前の一定期間に贈った分は、相続のときに相続財産へ持ち戻して相続税を計算します。

税率や持ち戻しのしくみは『暦年課税で始める無理のない生前贈与|毎年110万円の枠と知っておきたい注意点』で整理しています。

◆ 相続時精算課税とは?2,500万円まで先送りし、相続で精算

相続時精算課税は、その年の1月1日に60歳以上の親や祖父母から、18歳以上の子や孫へ贈るときに選べる方法です。累計2,500万円までは贈与税がかからず、超えた分にだけ一律20%がかかります。名前のとおり、贈与のときは税金を先送りし、相続のときにまとめて精算するしくみです。

こちらにも年110万円の基礎控除があり、その範囲で贈った分は、相続のときに持ち戻す必要がありません。ただし、いったん選ぶと、同じ人からの贈与を暦年課税へ戻すことはできません。しくみの全体像は『相続時精算課税とは?2,500万円まで先に渡し、相続のときに精算する』にまとめています。

◆ 2つの制度は何が違う?最大の分かれ道は「相続が起きたときの扱い」

2つを並べると、いちばんの違いは、相続が起きたときの扱いです。

暦年課税は、亡くなる前の一定期間の贈与だけを持ち戻し、それより前に贈った分は相続と切り離されます。相続時精算課税は、年110万円の枠を超えた贈与を、期間に関わらず相続財産へ持ち戻します。そのかわり、110万円の枠内の贈与は、何年分でも持ち戻しません。

もらえる相手の範囲も違います。暦年課税は相手を選ばず誰にでも贈れますが、相続時精算課税は、親や祖父母から子・孫へ、という間柄だけで使えます。

例:毎年110万円ずつ、子に贈っていたとします。そのあとに相続が起きたとき、相続財産にいくら持ち戻されるでしょうか。

暦年課税:亡くなる前の一定期間に贈った分が、相続財産へ持ち戻されます。この期間は、かつての3年から7年へと段階的に延びている最中です。かりに直近3年ぶんが対象なら――

 110万円 × 3年 = 330万円

この330万円が相続財産に加わり、そのぶん相続税の対象が増えます。期間が延びるほど、持ち戻される年数も増えていきます。

相続時精算課税:年110万円の枠の範囲なら、何年前の贈与でも持ち戻しません。同じ3年ぶんでも――

 相続財産に加わるのは 0円

同じ110万円ずつの贈与でも、相続が近いほど、暦年課税では持ち戻される分がふくらみます。精算課税の110万円枠が生きやすいのは、こうした場面です。

◆ わが家はどっち?「いくら・いつまでに・何を渡すか」で決まる選び方の基準

どちらが向くかは、渡したい額・相続までの見通し・渡す財産の中身で決まります。

長い年数をかけて、少しずつ、複数の子や孫へ配っていけるなら、暦年課税が向きます。毎年の110万円を人数分だけ重ねられ、早く始めるほど持ち戻しの影響も小さくなります。反対に、まとまった額を早く渡したいときや、相続までの時間が読みにくいとき、ご高齢のときは、相続時精算課税が力を発揮します。110万円の枠は持ち戻されず、2,500万円までは贈与税もかからないためです。

判断の分かれ目になりやすい点を、それぞれ並べておきます。

暦年課税が向きやすい方

  • 相続までまだ年数があり、毎年少しずつ長く渡していける
  • 子だけでなく、相続人にならない孫などにも配りたい
  • 特別な手続きをせずに、手軽に始めたい

相続時精算課税が向きやすい方

  • まとまった額を、早めに一度で渡しておきたい
  • 相続までの時間が読みにくい、またはご高齢
  • 値上がりしそうな財産(会社の株・地価が上がりそうな土地)を、いまの価額で移したい

ひとつ気をつけたいのが、自宅の土地です。土地は、生前に贈ってしまうと、暦年課税でも相続時精算課税でも、相続のときに使えるはずの小規模宅地等の特例が使えなくなります。この特例は、相続や遺贈で受け取った土地にだけ認められるからです。土地は無理に生前へ動かさず、相続で渡すほうが有利なこともあります。特例の中身は『小規模宅地等の特例とは?自宅の土地は330㎡まで8割減|相続税ゼロでも申告は必要』で整理しています。

◆ 迷ったときの進め方|まずは暦年課税から始めて、あとから切り替えることも可能

暦年課税から相続時精算課税へ移ることはできますが、精算課税を一度選ぶと、暦年課税には戻せません。

そのため、迷っているうちは暦年課税で始めておく、という進め方ができます。まとまった額を渡す必要が出てきた時点で、精算課税へ移ればよいからです。

どちらを選ぶにしても、共通の注意がひとつあります。通帳の名義を子に変えただけ、口座へお金を移しただけでは、贈与として認められないことがある点です。渡した事実と、受け取った側が自由に使える状態がそろって、はじめて贈与になります。この線引きは『名義預金とは?配偶者や子・孫の名義でも相続税がかかる理由』でふれています。

◆ 家族に、いちばんよい形で手渡すために

制度の名前はむずかしくても、選ぶ物差しは「いくらを・いつまでに・何を渡したいか」の3つだけです。お母様が元気なうちにと考えた、その気持ちが出発点になります。あとは、その思いに合うほうの制度を選べば、それでじゅうぶんです。

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