相続時精算課税とは?2,500万円まで先に渡し、相続のときに精算する

目次

── 贈与税がかからなくても、税がなくなるわけではありません

相続時精算課税は、親や祖父母からの贈与について、累計2,500万円までは贈与税がかからずに財産を渡せる制度です。納めるのは、財産をもらった側。ただし渡した分は、贈与した方が亡くなったときに相続財産へ戻して、あらためて相続税を計算します。つまり「税がかからない」というより、「いったん先に渡しておき、相続のときにまとめて精算する」制度です。まとまった額を早めに渡したい家庭には心強い一方で、選ぶ前に知っておきたい注意点もあります。

たとえば、こんなご相談があったとします。

ご相談者は、40代の方。数年前にお母様を見送り、いまはお父様がひとりで暮らしています。そのお父様から、「元気なうちに、まとまったお金を渡しておきたい。好きなように使いなさい」と言われたそうです。ありがたい話だけれど、金額が大きいだけに、税金がどうなるのかが気になって、調べはじめました。

そこで目にとまったのが、相続時精算課税でした。「2,500万円まで贈与税がかからない、と書いてありました。そんなにうまい話があるのかと、かえって不安で……。あとで大きな税金がきたりしないでしょうか」――そう、少し心配そうにおっしゃいました。

まずは、相続時精算課税の仕組みから、順番に見ていきましょう。

◆ 相続時精算課税とは?累計2,500万円まで贈与税がかからない

相続時精算課税は、その年の1月1日に60歳以上の親や祖父母から、18歳以上の子や孫へ財産を渡すときに選べる制度です。累計で2,500万円までは贈与税がかからず、これを超えた分にだけ、一律20%の贈与税がかかります。渡す財産の種類や回数に決まりはなく、何年かに分けて渡してもかまいません。

名前のとおり、大切なのは「相続のときに精算する」という点です。この制度で渡した財産は、贈与した方が亡くなったときに相続財産へ戻して、あらためて相続税を計算します。すでに納めた贈与税があれば、その分は相続税から差し引かれます。税金の話は相続のときまで続くと知っておけば、あとで慌てずにすみます。

もっとも、精算するからといって、必ず相続税がかかるわけではありません。渡した財産を戻して合計しても、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の範囲におさまれば、相続税はかかりません。相続税の基礎控除については『法定相続人とは?誰が相続人になるか|順位と法定相続分の基本』で触れています。冒頭のご相談者のように「あとで大きな税金がくるのでは」と不安になりがちですが、まずはご家庭の財産の全体を見て考えることが大切です。

出典:国税庁「No.4301 相続時精算課税の選択と相続税の申告義務」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4301.htm

◆ 年110万円の基礎控除|毎年110万円までは戻さなくていい

この制度には、2,500万円の枠とは別に、年110万円の基礎控除があります。1年間にこの制度で渡した財産のうち110万円までは贈与税がかからず、申告もいりません。そして大きいのは、この110万円分は、相続のときに相続財産へ戻さなくてよいことです。

かつての相続時精算課税は、渡した分をすべて相続財産に戻す必要があり、相続税の面では得になりにくいと言われていました。いまは、毎年110万円までの部分は戻さずにすむため、こつこつ長く続けるほど、次の世代へ渡せる財産が積み上がっていきます。

暦年課税にも、同じ110万円の枠があります。ただ、暦年課税では、亡くなる前の何年かに渡した分は、あとで相続財産に戻して相続税を計算し直すことになっています。相続時精算課税の110万円には、この戻しがありません。いつ渡したものでも相続財産に加えなくてよいので、渡した分だけ、着実に次の世代へ移していけます。暦年課税の仕組みは『暦年課税で始める無理のない生前贈与|毎年110万円の枠と知っておきたい注意点』で整理しています。

例:この制度を選び、ある年に、お父様から1,000万円の贈与を受けた場合

まず、1,000万円から、その年の基礎控除110万円を引きます。
 1,000万円 - 110万円 = 890万円

残った890万円は、2,500万円の特別控除でまかないます。特別控除の枠に収まるので、この年に納める贈与税は0円です。使った分だけ枠は減り、翌年以降に使える特別控除は1,610万円(2,500万円 - 890万円)残ります。

そして、お父様が亡くなったとき。相続財産に戻して数えるのは、基礎控除を引いたあとの890万円だけです。基礎控除の110万円は、戻さなくてかまいません。

出典:国税庁「No.4409 贈与税の計算(相続時精算課税の選択をした場合)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4409.htm

◆ 暦年課税と何が違う?「戻れないこと」と「まとめて渡せること」

暦年課税と相続時精算課税は、贈与する人ごとに、どちらか一方を選びます。いったん相続時精算課税を選ぶと、その人からの贈与については、あとで暦年課税に戻すことはできません。ここが、この制度のいちばん大事な注意点です。なお、戻せなくなるのは、選んだ相手からの贈与だけです。お父様からの贈与は相続時精算課税、お母様からの贈与はこれまでどおり暦年課税、といったことも可能です。

戻れないことに加えて、もうひとつの違いは、まとまった額を渡しやすいことです。暦年課税で大きな額を渡すと贈与税がかかりますが、相続時精算課税なら、2,500万円までは贈与税がかからずに、一度にまとめて渡せます。この身軽さは、これから値上がりが見込める財産――育っていく会社の株や、地価が上がりそうな土地など――と、とくに相性がよいところです。値上がりする前の低い価額のうちに移しておけば、相続のときも、渡した時点の価額のままで計算できるからです。反対に、値下がりする財産では、この特徴が裏目に出ることもあります。

◆ 選ぶ前に確かめたい|小規模宅地の特例と、届け出の期限

見落としやすいのが、自宅の土地を生前に渡してしまうケースです。亡くなった方の自宅の土地は、条件を満たせば評価額を大きく下げられる小規模宅地等の特例が使えますが、これは相続や遺贈で受け取った土地にしか使えません。暦年課税でも相続時精算課税でも、生前に贈与してしまえば、その土地では特例が使えなくなります。特例そのものの中身は『小規模宅地等の特例とは?自宅の土地は330㎡まで8割減|相続税ゼロでも申告は必要』で整理しています。

また、この制度を使うには、贈与を受けた翌年の申告期間(原則3月15日まで)に「相続時精算課税選択届出書」を税務署へ出す必要があります。期限に遅れると特別控除が使えず、その年の贈与にまるごと20%の税がかかることもあるため、届け出のタイミングだけは外せません。あわせて、不動産を贈与で渡すと、名義を変えるときの登録免許税は相続より高く、相続ではかからない不動産取得税もかかります。まとまった額を動かす前に、相続まで含めた全体で、税の負担がどちらのやり方で軽くなるのかを、一度試算しておくと安心です。

出典:国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm

◆ 相続時精算課税が向いているのは、どんな人?

ここまでをまとめると、相続時精算課税は、こんな渡し方に向いています。

  • まとまった額を、いちど早めに渡しておきたい
  • これから値上がりしそうな財産を、いまのうちに渡しておきたい
  • 財産の全体が相続税の基礎控除におさまりそうで、贈与税がかからずに渡したい

「毎年少しずつ、長く渡していきたい」という場合は暦年課税、と思われがちですが、相続時精算課税の110万円は相続財産に戻さなくてよいぶん、こちらのほうが有利になることもあります。2つの違いと、どちらがご家庭に合うのかは、『暦年課税と相続時精算課税、どっちを選ぶ?違いと選び方』で比較して説明しています。

◆ 家族へ、いちばんよい形で手渡すために

相続時精算課税は、「早めに、まとまった財産を家族へ渡したい」という気持ちを形にしやすい制度です。ただ、税がなくなるのではなく相続へ持ち越す仕組みなので、渡したあとのことまで一度見渡してから選ぶと、渡す側も受け取る側も落ち着いて構えられます。

元気なうちに手渡しておきたい――その親心は、金額の大きさにかかわらず、変わらないものです。仕組みを知ったうえで選べば、その思いは、いちばんよい形で家族に届きます。

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