家なき子特例はきょうだいの誰が使える?実家を出た時期が違う三兄弟のケース

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── 「家を出て3年たっていないから使えない」とは限りません

家なき子特例が使えれば、親が一人暮らしだった実家の土地を、別居していた子でも330㎡まで8割減で相続できます。実家を出てまだ日が浅いと「自分は3年ルールで使えない」と思いがちですが、決め手は、いつ出たかではなく、今 持ち家があるかどうかです。

ある相続のご相談で、こんなことがありました。

お母様を亡くされた、20代男性からのご相談でした。3人兄弟の末っ子、三男の方です。お父様は早くに先立たれ、お母様が女手ひとつで、3人の息子さんを育て上げられました。息子さんたちがそれぞれ独立してからは、ご実家でひとり暮らしをされていたそうです。

3人とも、大学を卒業して社会人になり、順に実家を出ていきました。長男と次男が家を出たのは、もう3年以上前のこと。長男は結婚して自分名義の家を持ち、次男は賃貸マンションで暮らしています。ご相談者である三男は、家を出てまだ2年ほど。こちらも賃貸暮らしです。

「家なき子には、3年ルールというものがあると聞きました。私は実家を出て2年しかたっていないので、対象外ですよね。特例を使って実家を継げるのは、次男の兄だけ、ということになるのでしょうか」

結論からいえば、そうではありません。ご相談者の三男も、家なき子特例を使える立場でした。なぜそうなるのか、順を追って見ていきます。

◆ 家なき子特例とは?配偶者も同居の相続人もいないときの8割減

家なき子特例は、小規模宅地等の特例の一部です。本来この特例は、亡くなった方と同居していた家族が自宅の土地を継ぐときに、330㎡まで評価額を8割減らせる制度です。そのうえで、亡くなった方に配偶者がおらず、同居していた相続人もいなかった場合には、別居していた親族でも一定の要件を満たせば同じ8割減が受けられます。この、別居していた親族でも使える扱いを、通称「家なき子」と呼びます。

今回のように、お父様が先に亡くなり、お母様がひとり暮らしのまま亡くなった二次相続は、家なき子が問題になる典型的な場面です。配偶者はすでにおらず、子どもたちはみな独立していて同居の相続人もいない。だからこそ、離れて暮らしていた子に道が残されています。

小規模宅地等の特例そのものの仕組みは、『小規模宅地等の特例とは?自宅の土地は330㎡まで8割減|相続税ゼロでも申告は必要』で取り上げています。まずは自宅の土地が8割減とはどういうことか、という全体像をつかんでおくと、この先が読みやすくなります。

◆ 3年ルールとは?亡くなる前3年以内に「持ち家」に住んでいないこと

家なき子特例は、その名のとおり「持ち家がないこと」が軸の制度です。実家の土地を相続する人に、自分の持ち家があるかどうか。それを、亡くなる前の3年間で見ます。具体的には、亡くなる前3年以内に、次のどれにも住んでいないことが求められます。

  • 自分の持ち家
  • 配偶者の持ち家
  • 3親等内の親族(親・祖父母・きょうだい・おじおば・甥姪など)の持ち家
  • 自分と特別の関係がある法人の持ち家

ご相談者が心配していたのは、この3つ目、「3親等内の親族の持ち家」です。実家はお母様名義、つまり親という3親等内の親族の持ち家にあたります。そこで2年前まで暮らしていた自分は、この要件に引っかかるのではないか——そう見えます。ところが、ここには大事な続きがあります。

◆ 実家に住んでいたことは「持ち家」に当たらない——家を出て2年でも使える

この3年ルールについて、国税庁のタックスアンサー(No.4124)では、住んではいけない家から「相続の直前に被相続人が住んでいた家屋」がかっこ書きで除かれています。つまり、住んではいけない家のリストから、相続するそのご実家だけは、はじめから外されているのです。

出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

実家はたしかにお母様名義の、親族の持ち家です。けれど、それは「亡くなる直前に被相続人=お母様が住んでいた家」そのものなので、見るべき「持ち家」からは外れます。実家に住んでいたことは、持ち家に住んでいたことにはならない、ということです。家なき子特例は、外で暮らしていた子がいずれ実家に戻って住み継ぐことを想定した制度なので、その実家に住んでいた過去まで持ち家に含めてしまっては、制度が成り立たないからです。

そうすると、ご相談者について問われるのは、実家を出てからの2年を「どこで」暮らしたか、だけになります。住んでいたのは、賃貸マンションです。自分の持ち家でも、配偶者や親族の持ち家でもありません。今の部屋を過去に所有していたこともない。だから、家を出てまだ3年たっていなくても、三男は家なき子の要件を満たすのです。「何年前に実家を出たか」ではなく、「実家を出てから、持ち家に住んだことがあるか」が見られている——ここがこの制度のいちばん誤解されやすいところです。

◆ 持ち家のある長男は家なき子特例を使えない——名義が配偶者でも同じ

いっぽうで、長男はどうでしょうか。長男は独立して自分名義の家を買い、いまもそこに住んでいます。亡くなる前の3年間を自分の持ち家で暮らしてきたことになるため、家なき子特例は使えません。実家を早くに出たか、最近出たかは、ここでも関係ありません。見られているのは、今、持ち家に住んでいるかどうかだけ。だから、持ち家のある長男は使えず、賃貸暮らしの三男は使える、という結果になります。

これは、家の名義が長男本人ではなく、その配偶者だったとしても変わりません。配偶者の持ち家も、先ほどのリストに入っているからです。なお、離婚して元配偶者になった人の家に住んでいる場合は、結論が変わります。この違いは『離婚した元夫は法律上「他人」─だから家なき子特例が使える場合があります』で取り上げています。「今 誰の名義の家に住んでいるか」で線が引かれる、というのが共通する考え方です。

◆ 家なき子特例を使えるのは「実家を取得した人」だけ——誰が継ぐかで税額が変わる

こうして整理すると、この三兄弟では、次男と三男の2人が家なき子の要件を満たすことになります。ただし、ここでもうひとつ大切なのは、特例が使えるのは、実家の土地を実際に取得した人だけ、という点です。要件を満たす次男と三男なら、2人で共有して相続しても、それぞれの持ち分に8割減が効きます。いっぽう、要件を満たさない長男が取得した部分には、同じ土地でも減額はありません。

つまり、遺産分割で誰が実家を取得するかを決めることが、そのまま相続税の額を左右します。次男と三男でどう分けるかは、それぞれの暮らしの予定や、ほかの財産との兼ね合いで家族が選べばよいことですが、税額のうえでは「要件を満たす人が実家を取得する」形に大きな意味があります。

注意したいのは、この判断を相続税の申告期限までに済ませておく必要があることです。誰が実家を相続するかが決まらないまま期限を迎えると、家なき子を含む小規模宅地等の特例は、その申告では使えません。分け方が決まらないときの扱いは『小規模宅地等の特例、未分割だと使えない|不動産を相続したときの注意点』で取り上げています。兄弟の話し合いは、税額のためにも早めに始めておくと安心です。

◆ 特例で相続税がゼロになっても、申告は必要

家なき子特例で8割減が効くと、相続税が大きく下がり、ケースによってはゼロになることもあります。ただし、税額がゼロでも、申告をしなくてよいわけではありません。この特例は、申告書に小規模宅地等の明細書や遺産分割協議書の写しなどを添えて申告して、はじめて認められるものだからです。何もしなければ、8割減そのものが受けられません。

あわせて、相続した実家の土地を、相続税の申告期限(亡くなったことを知った翌日から10ヶ月)まで持ち続けることも条件です。期限前に売ってしまうと、家なき子特例は使えなくなります。継いだあとにどうするかは、この10ヶ月を越えてから考えれば十分です。

制度は少し込み入っていますが、突きつめれば「持ち家のない子が、実家を継いで住み継げるように」という、ひとつの願いから成り立っています。早くに独立した子と、つい最近まで実家にいた子。どちらが先に家を出たか、という話ではありません。お母様が守ってこられた家を、誰の名前で継ぎ、次の世代へ渡していくか。その選択を、少しでも軽い負担でできるようにと用意されたのが、この特例です。

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