── 亡くなった日の株価だけで決まる、とは限りません。
相続した上場株式や投資信託は、いくらで評価するのかがわかりにくい財産です。株価や基準価額は日々動くので、どの時点の金額を使うかで、評価額は変わります。証券会社の残高証明書に金額が並んでいても、それをそのまま使うとは限りません。
たとえば、こんなご相談です。
ご相談者は、お父様を亡くされた40代の長女。お父様は長く株式投資に親しんでこられた方で、証券口座には、上場株式が何銘柄かと、投資信託がいくつか残されていました。ご自身は、株の売り買いをしたことがありません。
相続の手続きのために証券会社へ連絡すると、亡くなった日時点の残高証明書が届きました。そこには、銘柄と評価額らしき金額がずらりと並んでいました。数字を眺めてみても、これで合っているのか、確かめるすべもありません。
「この残高証明書の金額を、そのまま相続財産として申告してしまってよいのでしょうか」
――そう戸惑われるのも、無理のないことです。相続税の評価額には、財産の種類ごとに決まった出し方があります。上場株式と投資信託とでは、その方法も少し違います。まずは上場株式から順番に見ていきましょう。
◆ 上場株式の評価方法|4つの終値・月平均のうち最も低い額で評価する
上場株式は、証券取引所で日々売買され、価格が動きます。亡くなった日の終値が、たまたま高いこともあります。そこで相続税では、次の4つの金額のうち最も低い額で評価します。
- 亡くなった日の終値(その日の最後についた価格)
- 亡くなった月の、毎日の終値の平均
- その前の月の、毎日の終値の平均
- その前々月の、毎日の終値の平均
この判定は銘柄ごとに行うので、ある銘柄は前の月の平均、別の銘柄は亡くなった日の終値、というように、評価に使う金額は銘柄によって変わります。
4つの価額を比べてみる
ある上場株式を2,000株持っていたとします。
亡くなった日の終値 1,500円
亡くなった月の終値の平均 1,470円
前の月の終値の平均 1,410円
前々月の終値の平均 1,480円
このうち最も低いのは、前の月の平均1,410円です。
1,410円 × 2,000株 = 282万円
亡くなった日の終値だけで計算すると300万円ですから、4つを比べるだけで18万円低くなります。
なお、亡くなった日が土日や祝日で終値がないときは、その前後でいちばん近い日の終値を使います。配当や株式分割の権利が確定する日をまたぐ場合などは、価格を調整することもあります。上場株式の評価額は、証券会社の残高証明書に参考として載っていることもあります。ただ、それが4つのうち最も低い金額とは限らないので、実際に4つを出して確かめておくと確実です。
もうひとつ、株式で見落としやすいのが配当です。持ち株に配当が出ても、それが振り込まれる前に亡くなることがあります。この受け取り前の分も、株式とは別に相続財産になります(配当期待権・未収配当金と呼ばれます)。加えるのは配当の額そのものではなく、そこから源泉徴収される税金を引いた金額です。
出典:国税庁「No.4632 上場株式の評価」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4632.htm
◆ 投資信託の評価方法|亡くなった日に解約したときの手取り額で計算する
投資信託も、亡くなった日を基準に評価します。上場株式のような取引所の終値はありません。多くは、その日に解約したら手元に入る金額が、評価額になります。
具体的には、亡くなった日の基準価額(そのときの1口あたりの値段)に、持っている口数をかけます。そこから、もし解約したら差し引かれる税金や手数料を引いた額が、評価額です。基準価額に口数をかけただけより、少し低くなります。
これらの差し引く金額は、残高証明書には書かれていないことがあります。証券会社に「相続税の申告に使う評価額」を尋ねると、差し引いたあとの金額を出してもらえることが多いので、一度確認しておくとよいでしょう。
同じ投資信託でも、証券取引所に上場されているものは扱いが変わります。ETF(上場投資信託)やJ-REIT(不動産投資信託)は、上場株式と同じ方法で、終値と月平均額のうち最も低い額で評価します。このほかにも、商品の種類によって計算に細かな違いがあります。手元の投資信託がどれにあたるかは、証券会社に聞けば教えてもらえます。
出典:国税庁「No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4644.htm
◆ 非上場株式と公社債|市場価格がない有価証券の扱い
ここまでは、上場株式と投資信託を見てきました。同じ有価証券でも、非上場株式(取引相場のない株式)は、評価の仕方がまったく違います。市場での価格がないため、会社の規模や資産、利益、配当などをもとに計算します。手順が何通りもあって専門的なので、非上場株式の評価は税理士などの専門家に任せるのが一般的です。家族が営む会社の株式を引き継いだようなときに関わってくるもので、上場株式や投資信託とは別のものと考えてよいでしょう。
個人向け国債や社債などの公社債も、相続財産です。額面や残高証明書の参考価格がそのまま評価額になるとは限らず、上場の有無などの区分に応じた価格に、亡くなった日までの利息(源泉所得税を引いた分)を足して求めます。個人向け国債は財務省の中途換金シミュレーションで試算でき、計算が入り組むものは専門家に確認すると確実です。
◆ 相続税の評価額を出す|残高証明書と、売却時の税金との違い
評価額を出すうえで、分けて考えたいことがあります。ここでの評価は、あくまで相続税を計算するための金額だという点です。相続したあとに売って利益が出れば、それには別に所得税がかかり、そのときは元の持ち主が買った値段(取得費)が関わってきます。相続したときの評価と、売ったときの税金は別もので、売却の税金は『相続した株を売ったときの税金|取得費と譲渡益』で整理しています。
相続税の評価額は、証券会社から亡くなった日時点の残高証明書を取り寄せるところから出していきます。上場株式なら4つの価額を比べ、投資信託なら解約したときの金額を確かめる。銘柄や商品によって方法が違うので、それぞれに合わせて金額を出していきます。
