── 通帳の残高を書き写すだけ、とは限りません。
現金や預貯金の相続税評価は、亡くなった日の残高が基本です。ただし、定期預金は死亡日までの利息を上乗せし、外貨預金は円に換算するなど、種類によって計算の仕方が少しずつ違います。
たとえば、こんなご相談があったとします。
ご相談者は、お父様を亡くされた60代の方。残された財産の多くは、いくつかの銀行の預金でした。株や不動産と違って、預金なら通帳の残高を書き写すだけだろう、と思っていたそうです。
ところが、銀行から取り寄せた残高証明書を見ると、定期預金の欄に「既経過利息」という見慣れない項目が並んでいます。金額は多くないものの、外貨建ての預金もありました。
「預金は、残高をそのまま書けばいいと思っていたのですが……この利息や外貨は、どう扱えばいいのでしょうか」
――そう戸惑われるのも、無理のないことです。預金といっても、種類によって評価の方法が少しずつ違います。まずは、現金と普通預金から順番に見ていきましょう。
◆ 現金と普通預金の評価|亡くなった日の残高をそのまま適用する
自宅や財布に残っていた現金は、亡くなった日にあった金額(額面)が、そのまま評価額になります。手元の現金をどこまで含めるか、亡くなる直前に口座から下ろしたお金の扱いは、『自宅にあった現金は相続財産? 亡くなる前に下ろしたお金の扱い』で取り上げています。
普通預金も、考え方は同じです。亡くなった日の残高が、そのまま評価額になります。預金には利息がつきますが、普通預金の利息はごくわずかなので、死亡日までの分をあらためて上乗せする必要はありません。
つまり、現金と普通預金については、亡くなった日の残高をそのまま書けばよい、と考えて差し支えありません。少し扱いが違うのが、次の定期預金です。
◆ 定期預金の評価|残高に「既経過利息」を上乗せして計算する
定期預金や定額貯金などは、亡くなった日の残高に、その日までの利息を加えて評価します。この利息を「既経過利息(きけいかりそく)」と呼びます。
既経過利息とは、亡くなった日に解約したと仮定した場合に、受け取れるはずの利息のことです。定期預金は、満期まで待てば決まった利息がつきますが、相続税では満期時ではなく、亡くなった日に解約したらいくら受け取れるか、で考えます。その日までに付いた利息の分だけ、残高より少し多く評価することになります。
ただし、利息には税金がかかります。銀行の「既経過利息計算書」に載るのは税金を引く前の額で、そこから税金を差し引いた金額を残高に上乗せします。計算書は頼まないと発行されないことが多いので、残高証明書を申し込むときに、あわせて依頼しておきましょう。
既経過利息を計算してみる
定期預金の残高が500万円で、亡くなった日に解約した場合の既経過利息が1万円だったとします。
既経過利息 10,000円
利息にかかる税金(20.315%) 2,031円
残高に上乗せする利息 10,000円 − 2,031円 = 7,969円
残高に足すので、評価額は 5,000,000円 + 7,969円 = 5,007,969円 になります。
なお、上乗せするのは、亡くなった日までの利息だけです。その日より後についた分は含めません。
出典:国税庁「財産評価基本通達 203(預貯金の評価)」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/08.htm
◆ 外貨預金の評価|亡くなった日の為替レート(TTB)で円換算する
外貨預金は、外貨のままでは相続税の評価ができないので、日本円に換算します。使うのは、亡くなった日の「TTB」というレートです。TTBは、外貨を円に換えるときのレートです。相続した外貨を円に換えれば、実際にこの金額を受け取れるので、このレートで評価します。
レートは、その外貨預金を預けている金融機関が公表するものを使います。銀行が複数あれば、それぞれの銀行のレートで換算します。亡くなった日が土日祝日などでレートの公表がない場合は、その日より前で、いちばん近い日のレートを使います。
たとえば、1万米ドルの外貨預金があり、亡くなった日のTTBが1ドル150円だったとすると、評価額は150万円です。反対に、円を外貨に換えるときのレートはTTSですが、外貨預金の評価に使うのはTTBです。
出典:国税庁「No.4665 外貨(現金)の邦貨換算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4665.htm
◆ 預貯金評価に必要な手続き|残高証明書・計算書の取得と名義預金の確認
預貯金の評価は、亡くなった日を基準に、すべての金融機関・すべての口座について行います。取引のあった銀行や信用金庫、ゆうちょ銀行などに、死亡日時点の残高証明書を発行してもらいましょう。定期預金があれば、あわせて既経過利息計算書も頼んでおきます。同じ銀行に複数の支店や口座があるときは、まとめて証明書に載せてもらえます。
残高証明書とあわせて、過去の取引の記録(入出金の履歴)も取り寄せておくと安心です。まとまった金額の動きがあれば、家族名義の口座に移したお金や、亡くなる前に下ろした現金がないかを確かめる手がかりになります。家族の名前になっている口座でも、お金の出どころが実際には亡くなった方であれば、その預金は相続財産に含まれます。名義が誰かではなく、中身が実質的に誰のものかで決まります。この見分け方は、『名義預金とは?配偶者や子・孫の名義でも相続税がかかる理由』で説明しています。
預貯金は、亡くなった方が日々の暮らしのなかで蓄えてきたお金です。現金と普通預金は残高のまま、定期預金は利息を足し、外貨は円に換える。種類ごとに確かめ、金融機関ごとに残高証明書をそろえていけば、預貯金の評価はまとまります。
