遺産分割のやり直しはできる?全員が合意してもかかる贈与税と、課税されない例外

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── 一度決めた分け方を、あとから変えたくなったとき

遺産分割のやり直しは、相続人全員が合意すればできます。ただし、いったん有効に成立した分割をやり直すと、税金の世界では相続ではなく相続人同士の贈与や譲渡とみなされ、相続税とは別に贈与税や譲渡所得税がかかることがあります。分け直す前に、その負担の重さを知っておくと、判断を誤らずに済みます。

実際に、ある相続のご相談で、こんなことがありました。

お父様を亡くされた、50代の女性からのご相談でした。お父様の相続人は、お母様と、お子さん2人(長男・長女)。ご相談者は、その長女にあたる方です。財産は、ご実家の土地と建物、それに預貯金。早く区切りをつけたいという思いもあって、「ご実家は長男、預貯金はお母様と長女で」と、比較的すんなり分け方がまとまりました。相続税の申告も納税も、期限内に済ませています。

ところが1年ほど経って、ご相談者の胸に、ふと引っかかりが残ります。冷静に考えると、実家をもらった長男だけが、得をしているのではないか――。お母様も長男も、その言い分はもっともだと受け止め、「それなら、実家を売って、お金を3人で分け直そう」と、ご家族みんなが納得して合意されました。

そのうえで、念のためにと、ご相談にいらっしゃいました。「家族みんなが納得して、もう一度分け直すだけなのに、まさか税金はかかりませんよね」――半ば確認するように、そうおっしゃいました。

残念ながら、かかります。しかも、すでに払った相続税とは別に、です。

◆ 遺産分割のやり直しは、相続人全員の合意があればできる

まず、民法の側から見ます。一度成立した遺産分割を、あとからやり直すことは、相続人全員が合意すればできます。最高裁も、1990年(平成2年)9月27日の判決で、相続人全員の合意があれば、いったん成立した分割協議を解除して、改めて分け直せることを認めています。

逆に言えば、一人でも反対する人がいれば、やり直しはできません。「自分だけ損をした気がする」という一部の人の不満だけでは、すでにまとまった分割を覆せない、ということです。

また、家庭裁判所の調停や審判で決まった分割は、原則としてやり直せません。これは相続人それぞれの言い分を踏まえて裁判所が公的に下した結論なので、「全員が合意したから」という理由だけでは動かせない、と考えられています。

◆ やり直すと「相続」ではなく「贈与・譲渡」——贈与税・譲渡所得税がかかる

問題はここからです。民法ではやり直せても、税金の側は、まったく別の見方をします。

最初の遺産分割が有効に成立した時点で、財産はいったんそれぞれの相続人のものに確定します。そのあと分け直すと、いったん自分のものになった財産を別の相続人へ渡したことになり、相続ではなく、相続人同士の贈与(または譲渡)として扱われます。国税庁も、やり直しとして再配分した財産は「相続による取得には当たらない」と、はっきり示しています。

出典:国税庁「相続税法基本通達 19の2-8(分割の意義)」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/06.htm

すると、こうなります。新しく財産を受け取った人が、相手にお金を払っていなければ「贈与」とみなされ、贈与税がかかります。お金を払って受け取ったのなら「譲渡」とみなされ、今度は渡した側に譲渡所得税がかかります。

先ほどの事例で言えば、長男がいったん相続したご実家を売り、その代金をお母様と長女にも分けると、長男から二人へ、見返りなくお金が渡ります。これは贈与にあたり、受け取ったお母様と長女に贈与税がかかります。最初の相続では相続税を納め、分け直しでは改めて贈与税——同じ財産をめぐって、税金が二段がまえでのしかかってくるわけです。しかも、最初に納めた相続税は、やり直したからといって戻ってはきません。

それだけではありません。長男がご実家を売れば、その売却自体にも譲渡所得税がかかることがあります。相続した不動産を売って値上がり益が出ると、売った人自身に所得税が生じるからです。買ったときの値段がわからないと税額が大きく膨らむ点も含めて、この譲渡所得の仕組みは「相続した株を売ったときの税金|取得費がわからない時の譲渡所得の注意点」でくわしく触れています。題材は株ですが、不動産でも考え方は同じです。

贈与税の税率は、相続税よりも高く設定されており、負担は決して軽くありません。「納得して分け直すだけ」のつもりが、想定外の負担になってしまう——現場でいちばん驚かれるのが、この点です。

なお、やり直しで動く財産がごくわずかで、贈与とみなされる金額が年間110万円の範囲に収まるなら、贈与税はかからないこともあります。とはいえ、不動産や株のように評価額の大きいものを分け直すと、この枠はすぐに超えてしまいます。

◆ 不動産を分け直すと、不動産取得税・登録免許税も二重にかかる

分け直す財産に不動産が含まれ、名義が変わると、税金はもう一段重なります。

新しく不動産を取得した人には不動産取得税が、その名義変更の登記には登録免許税がかかります。どちらも、いったん納めれば戻ってきません。とくに登録免許税は、最初の相続登記でも払っているので、やり直すと二度払う形になります。

つまり、不動産を含むやり直しは、贈与税(または譲渡所得税)・不動産取得税・登録免許税が、まとめてのしかかってくる可能性があるということです。土地や建物を動かすやり直しほど、慎重に考える必要があります。

◆ やり直しでも課税されない例外(無効・取消し・新財産)

ここまでは「いったん有効に成立した分割を、全員が納得したうえで分け直す」場合の話です。一方で、そもそも最初の分割が法的に無効だったり、取り消されたりした場合は、扱いが変わります。

たとえば、相続人の一人が外されたまま協議していた、財産の中身について重大な勘違い(錯誤)があった、誰かにだまされた(詐欺)・脅された(強迫)——こうした事情があると、最初の分割は「初めからなかったもの」として扱われます。この場合のやり直しは、贈与や譲渡ではなく、ふつうの相続による取得です。贈与税や譲渡所得税はかかりません。ただし、すでに済ませた相続税の申告は、修正申告や更正の請求でやり直す必要があります。

もう一つ、混同されやすいのが「あとから財産が見つかった」ケースです。協議のときに把握していなかった預金や株が新たに出てきて、その新しい財産だけを分ける場合は、やり直しではなく「新しく見つかった財産の分割」です。これは相続の続きなので、原則として贈与税はかかりません。

では、見つかった財産を機に、いっそ全体を分け直すことはできるのか。これも全員が合意すればできますが、すでに有効に分け終えた部分まで動かせば、その部分はやり直しとして、贈与税や譲渡所得税の対象になります。ただし、出てきた財産があまりに大きく、それを知っていれば最初の分け方には誰も合意しなかった、と言えるような場合は別です。このときは最初の協議に勘違い(錯誤)があったとされ、「初めからなかったもの」として扱われます。やり直しではなく、ふつうの相続として分け直すことになるので、贈与税はかかりません。つまり、ただの心変わりか、それとも錯誤か——同じ全体のやり直しでも、その違いで課税されるかどうかが分かれます。

なお、だまされた・勘違いしていたことを理由に取り消す場合には、期限があります。気づいたときから5年、分割のときから20年を過ぎると、取り消せなくなります。「無効だから時効はない」と思い込んでいると、間に合わないことがあるので注意してください。

◆ 遺産分割をやり直さずに済ませるには

いちばんの答えは、ありふれて聞こえますが、「分割を、一度で決めきる」ことに尽きます。やり直しの税金は、本来であれば払わずに済んだはずの負担です。それを承知のうえで、なお分け直す価値があるのか——そこを冷静に見極めることが大事です。

そのためには、分ける前の段階で、財産の全体像をできるだけ正確につかんでおくこと。不動産の評価や、見落とされがちな預金・株まで含めて洗い出しておけば、「あとから出てきて分け直す」事態は減らせます。

それでも、やり直さざるをえないこともあります。当初の協議に無効や取り消しの原因があるのか、それとも全員が納得しての分け直しなのか——この線引きで税金は大きく変わります。動く前に、一度税理士に相談してみてください。

全員の合意が要るだけに、話し合いの途中で誰かが亡くなると、そこで行き詰まります。その取り分はすでに次の相続人へ移っていて、元の顔ぶれでは分け直せないからです。やり直すなら、全員がそろっているうちに、です。

分け直したいという気持ちは、たいてい「公平にしたい」「家族のあいだに、わだかまりを残したくない」という、相手を思う気持ちから生まれます。その思いは、とても自然で、大切なものです。だからこそ、その気持ちが余計な負担に変わってしまわないように、最初のひと区切りを、ご家族みんなが納得できる形で、丁寧に決めておく。遠回りのようでいて、それが、あとからやり直さずに済む、いちばん確かな道なのだと思います。

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