数次相続とは?遺産分割の前に相続人が亡くなったときの手続きと税金

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──相続人が増えて、こじれてしまう前に

遺産分割が終わらないうちに相続人が亡くなると、その権利が次の相続人へ移る「数次相続」になり、話し合う人が一気に増えます。こじれて手がつけられなくなる前に、相続は早めに、分けられるうちに分けておくことが大切です。

実際に、ある相続のご相談で、こんなことがありました。

お父様を亡くされた、60代の女性からのご相談でした。亡くなったお父様の相続人は、ご高齢のお母様と、お子さん3人(長男・長女・次男)。ご相談者は、長女にあたる方でした。財産の中心はご実家の土地と建物で、それをどう分けるかで、お子さんたちの意見が割れていました。お母様もご高齢でしたが、「急ぐことでもないから」と、話し合いは止まったまま、1年、2年と過ぎていきます。

そうしているうちに、いちばん上のお兄様が、病気であっという間に亡くなられました。ここで、相続がもう一つ重なります。お兄様が受け取るはずだった取り分――お父様の遺産についての権利は、お兄様の奥様とお子さん(ご相談者から見れば甥・姪にあたります)が、そのまま引き継ぐことになりました。

結果として、もともとはお子さんたちだけで進めていた話し合いに、義理のお姉様と甥姪までが加わることになります。話は、それまで以上にまとまらなくなりました。「兄が元気なうちに、決めておけばよかった」と、その方は静かにうつむかれました。

◆ 数次相続とは|遺産分割の前に相続人が亡くなること

一次相続の遺産分割が終わらないうちに、相続人が亡くなる。すると、その亡くなった人が持っていた「相続人としての立場」――つまり遺産を受け取る権利が、その人自身の相続人へ、そっくりそのまま引き継がれます。これを数次相続と呼びます。

似た言葉に「代襲相続」がありますが、これは別物です。代襲相続は、親より「先に」子が亡くなっていたとき、その子の子――つまり孫が、親の相続人になる仕組みです。このとき、先に亡くなった子の配偶者(嫁や婿)は、相続人にはなりません。

いっぽう数次相続は、親が亡くなった時点では子は生きていて、いったんは相続人になっています。その子が、遺産を分け終わらないうちに亡くなった場合です。すると今度は、その子自身の相続として、配偶者やお子さんへ権利が引き継がれていきます。さきほどの例で、お兄様の奥様が話し合いに入ってきたのは、これが理由です。亡くなる順番が「親より先か、後か」――たったそれだけで、誰が加わるかが大きく変わります。

こうなると、まだ決まっていなかった一次相続の遺産分割を、もとの相続人に加えて、亡くなった相続人の相続人――先ほどの例なら、お兄様の奥様や甥姪――も交えて、進めていくことになります。話し合うメンバーが、途中から増えるわけです。

◆ 数次相続で遺産分割協議の参加者が増える理由

先ほどの例でいえば、お兄様の奥様と甥姪が、お父様の遺産分割の話し合いに加わります。お父様とは血のつながらない方が、テーブルにつくことになるわけです。

遺産分割協議は、相続人が一人でも欠けると無効になります。全員の合意がそろって、はじめて成立する。つまり、人が増えれば増えるほど、合意は遠のいていきます。

私が現場で感じるのは、もめている分割は、時間が解決してくれないということです。むしろ逆で、放っておくほど相続人は歳をとり、亡くなる方も出てくる。当事者は増え、互いの関係は薄まり、事情を知らない世代が入ってくる。合意は、年を追うごとに難しくなる一方なのです。

そして、いちど重なった相続は、さらに続くこともあります。話がまとまらないまま、また一人、また一人と亡くなっていけば、三次相続、四次相続と、相続が積み重なっていく。当事者は雪だるまのように膨らみ、やがて顔も知らない遠縁どうしで、ひとつの土地の行く末を話し合うことにもなりかねません。だからこそ、重なる前に区切りをつけておくことが、何よりの備えになります。

◆ 数次相続の相続人確定と遺産分割協議書(相続人兼被相続人)

数次相続では、お父様とお兄様、お二人分の相続人を確定したうえで、その全員で一つの分割をまとめなければなりません。もともとはお父様お一人の相続を片づけるはずが、そこにお兄様の相続まで絡んできて、一度に二人分を背負うことになります。一つひとつの作業は同じでも、それが二重に重なり、関係も書類も一段ややこしくなります。

遺産分割協議書の書き方も変わります。先ほどのお兄様は、お父様の相続人であると同時に、ご自身の相続では被相続人でもあります。そこで協議書では、その方を「相続人兼被相続人」と書き表します。そして協議書は、お父様の相続とお兄様の相続を一通にまとめるのではなく、亡くなった方ごとに分けて作るのがふつうです。そのほうが、誰の相続の話なのかが混ざらず、はっきりするからです。こうした一つひとつが、ふだんの相続より一段、神経を使う作業になっていきます。

◆ 数次相続の相続税|申告期限の延長と相次相続控除

慌てる前に、税の扱いを淡々と押さえておきます。

まず申告期限。相続税の申告期限は、相続を知った日の翌日から10ヶ月ですが、一次相続の申告をすべき人がその期限の前に亡くなった場合、その亡くなった人の分の申告期限だけが、「その人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月」まで延びます。注意したいのは、延びるのは亡くなった人の分だけだということ。生きている他の相続人の期限は、もとのまま動きません。「相続が重なったのだから全部延びるだろう」と思い込むと、足をすくわれます。

次に、未分割のままだと特例が使えないという問題です。分け方が決まらないうちは、配偶者の税額軽減も、小規模宅地等の特例も使えません。本来なら大きく減らせたはずの税を、軽くできないまま、しかも現金で先に納めることになります。これは数次相続に限った話ではありませんが、人が増えて分割が長引くほど、この落とし穴にはまりやすくなります。詳しくは「遺産分割の決め方|税理士でも決められない「納得できる分け方」とは」と「小規模宅地等の特例、未分割だと使えない|不動産を相続したときの注意点」に書きました。

いっぽうで、救いになる仕組みもあります。相次相続控除です。短い間に相続が続くと、同じ財産にほぼ立て続けに相続税がかかり、負担が重くなりすぎてしまう。それをやわらげるために、前の相続から10年以内に次の相続が起きた場合は、前の相続で納めた相続税の一部を、後の相続の税額から差し引けることになっています。差し引ける額は、前の相続からの年数が経つほど少しずつ小さくなり、間隔が短いほど大きく効きます。今回のように相続が立て続けに起きたときには、ぜひ思い出したい制度です。

なお、基礎控除は数次相続でも増えません。一次相続の基礎控除は、あくまで一次相続の法定相続人の数で計算します。後から人が加わっても、その人数は数えません。ここを取り違えると、見込みが狂います。

◆ 数次相続と相続登記|2024年の義務化に注意

遺産に不動産があるときは、原則として一次相続、二次相続の順に相続登記をしていきます。間に入る相続人が一人であるなど、一定の条件を満たせば、途中を省いて登記できる場合もあります。

そして、相続登記は2024年4月から義務になりました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記をしないと、正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象になりえます。やっかいなのは、数次相続で名義をそのままにしていると、一代分どころか二代分、三代分と登記がたまっていくことです。あとから一気に片づけようとすると、それだけで大きな手間になります。「名義はそのうちでいい」が、もう通らなくなってきています。

◆ 数次相続を避けるには|元気なうちに遺産分割を

結局のところ、数次相続は「先延ばし」から生まれます。だから、できることはシンプルです。元気なうちに、分けられるうちに分けておく。それに尽きます。

急ぐ必要はない、と思っているうちに、当事者は静かに増えていきます。一人増えるごとに、まとまるはずだった話も、まとまらなくなる。だからこそ、関係者がいちばん少なく、気持ちもまだ新しいうちに、大きな方向だけでも決めておく。それが、結局はいちばん穏やかに済む道です。

いちど相続が重なってしまうと、増えた当事者を、後から減らすことはできません。話し合いは、難しくなる一方です。だからこそ、まだ参加者が少ないうちに、家族で大きな方向を決めておく。先延ばしにした先で悔やまないために、できることは、それだけなのです。

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