桃太郎は、おじいさんの相続人になれる?

目次

桃から始まった家族と、法律上の親子のお話

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。

おじいさんは山へ柴刈りに。

おばあさんは川へ洗濯に。

ある日のことです。

おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から何か大きなものが流れてきました。

どんぶらこ。

どんぶらこ。

それは、見たこともないほど大きな桃でした。

「まあ、立派な桃だこと」

おばあさんは桃を拾い上げ、家へ持って帰りました。

山から戻ったおじいさんも驚きました。

「これは大きいなあ」

二人で食べようと桃を割ってみると――

中から、元気な男の子が現れました。

おじいさんとおばあさんは、たいそう驚きました。

けれど、二人には子どもがありませんでした。

やがて二人は、その子を桃太郎と名付け、わが子のように大切に育てるようになりました。

桃太郎はよく食べ、よく眠り、よく笑いました。

転んで膝をすりむけば、おばあさんが手当てをしました。

熱を出せば、おじいさんが夜中まで何度も様子を見ました。

悪さをすれば叱られました。

いいことをすれば褒められました。

桃太郎にとって、おじいさんとおばあさんは、最初からずっと父と母でした。

そして二人にとっても、桃太郎は大切な息子でした。

やがて桃太郎は立派な若者になり、鬼ヶ島へ鬼退治に向かいました。

途中で出会った犬、猿、キジと力を合わせ、鬼を退治した桃太郎は、無事に村へ帰ってきました。

村では大変な騒ぎになりました。

けれど、おじいさんとおばあさんにとっては、鬼を退治したことよりも、桃太郎が無事に帰ってきたことの方がうれしかったようです。

「よく帰ってきた」

おじいさんは、それだけ言いました。

桃太郎も、それだけで十分でした。

鬼退治から、ずっと後のお話

それから、長い年月が流れました。

鬼ヶ島から帰った桃太郎は、以前と同じ家で、おじいさんとおばあさんと暮らしました。

昔はおじいさん一人でしていた力仕事も、いつの間にか桃太郎の仕事になっていました。

屋根が傷めば、桃太郎が上りました。

薪がなくなれば、桃太郎が割りました。

畑を耕すときも、重いものを運ぶときも、桃太郎が先に動きました。

「昔は、お前なんか片手で持ち上げられたんだがなあ」

畑のそばで、おじいさんが言ったことがあります。

「ぼくを?」

「そうだ」

桃太郎は笑いました。

「そんなに小さかった?」

「小さかったとも」

おじいさんは少し考えてから言いました。

「まあ、最初から桃は大きかったがな」

「ぼくじゃなくて桃の話?」

「お前は桃の中にいたから、よく分からん」

二人で笑いました。

そんな何でもない会話が、毎日の暮らしの中にありました。

家は古くなりました。

柱には傷が増えました。

雨戸は少し重くなりました。

畑の土も、毎年同じように見えて、少しずつ変わっていきました。

そして、おじいさんとおばあさんも年を取りました。

桃太郎が子どものころには大きく見えたおじいさんの背中は、いつの間にか小さくなっていました。

ある年の春。

おじいさんと桃太郎は、家の裏の畑にいました。

桃太郎が鍬を動かし、おじいさんは畑の端に腰を下ろしていました。

「桃太郎」

「なに?」

「この畑も、お前の方が詳しくなったな」

「毎年やってるからね」

「家のことも、お前の方が分かっとる」

桃太郎は手を止めました。

「どうしたの、急に」

「いや」

おじいさんは家の方を見ました。

「長く住んだと思ってな」

桃太郎も振り返りました。

立派な屋敷ではありません。

小さな家でした。

雨が続けば湿っぽくなるし、冬は隙間風も入ります。

けれど桃太郎にとっては、生まれたときからそこが家でした。

「これからも住むでしょ」

桃太郎が言うと、おじいさんは笑いました。

「そうだな」

それから、いつものように一日が過ぎました。

桃太郎は、その日の会話を特別なものだとは思いませんでした。

家はずっとそこにある。

畑もずっとそこにある。

おじいさんとおばあさんも、ずっとそこにいる。

どこかで、そんなふうに思っていたのです。

おじいさんが残したもの

その数年後。

おじいさんは亡くなりました。

大きな病を長く患ったわけではありませんでした。

年を重ね、少しずつできないことが増え、ある日、静かに息を引き取りました。

家の中が、急に広くなったように感じました。

おじいさんがいつも座っていた場所。

使っていた湯呑み。

畑仕事に使っていた道具。

柱に掛けた古い笠。

どれも昨日までと同じ場所にあるのに、そこにいるはずの人だけがいません。

おばあさんは、ときどき何かを言いかけて、おじいさんのいた場所を見ました。

そして、「ああ、そうだったね」と小さく言いました。

桃太郎も同じでした。

畑へ出て、何かを尋ねようとしてから気づくことがありました。

もう、返事はありません。

それでも朝になれば日は昇り、畑の草は伸びました。

屋根が傷めば直さなければなりません。

暮らしは続いていきます。

しばらくして、桃太郎とおばあさんは、おじいさんが残したものを少しずつ整理することにしました。

家。

畑。

わずかな預金。

農具や家財。

どれも大げさな財産ではありません。

けれど、一つひとつに、おじいさんが生きていた時間が残っていました。

古い箱から、小さな手ぬぐいが出てきました。

「ああ、これ」

おばあさんが言いました。

「桃太郎が小さいころ、おじいさんが頭に巻いてやったやつだよ」

「覚えてないなあ」

「そりゃそうだよ。まだこんなに小さかったんだから」

おばあさんは両手で大きさを示しました。

「そんなに?」

「もう少し大きかったかねえ」

「桃くらい?」

おばあさんは笑いました。

「桃よりは小さかったよ」

桃太郎も笑いました。

そして手ぬぐいを、捨てるものではなく残すものの方へ置きました。

整理を続けながら、桃太郎は自然に考えていました。

この家には、これからもおばあさんが暮らす。

自分もここにいる。

畑も続ける。

屋根が傷めば自分が直す。

おじいさんが大切にしてきたものは、自分とおばあさんで守っていけばいい。

桃太郎にとって、それはあまりにも当たり前のことでした。

なぜなら、自分はおじいさんの息子だからです。

少なくとも桃太郎は、生まれてから一度も、それを疑ったことがありませんでした。

相続というもの

けれど、人が亡くなると、思い出を整理するだけでは済まないことがあります。

残された財産をどうするのか。

誰が受け継ぐのか。

名義はどうするのか。

何を調べなければならないのか。

桃太郎にも、少しずつ「相続」という言葉が身近になってきました。

鬼退治なら、やることは分かりやすかったものです。

鬼ヶ島へ行く。

鬼を退治する。

それで終わりです。

もちろん実際には大変でしたが、少なくとも目指す場所と相手は見えていました。

ところが相続には、鬼がいません。

どちらを向いても、倒せば終わる相手が見当たりません。

刀を振っても、家の名義は変わりません。

きびだんごを配っても、必要な手続きが済むわけではありません。

犬と猿とキジを呼ぼうかとも一瞬思いましたが、おそらく今回は三匹とも役に立たないでしょう。

桃太郎は、自分で一つずつ調べることにしました。

まず、誰が相続人になるのか。

おじいさんの妻である、おばあさん。

そして――

桃太郎は、そこで手を止めました。

「子」

書かれている言葉を、もう一度見ました。

亡くなった人に子がいる場合、その子は相続人になる。

桃太郎は最初、何も疑いませんでした。

自分のことだと思ったからです。

けれど、なぜでしょう。

その日は、その一文字が妙に気になりました。

子。

桃太郎は考えました。

自分は、おじいさんの子だ。

ずっとそう思ってきた。

おじいさんも自分を息子として育ててくれた。

おばあさんもそうだ。

村の人たちだって、桃太郎を二人の息子だと思っている。

だから問題ない。

そう思いました。

ところが、頭の片隅で、小さな疑問が消えません。

桃太郎はもう一度、調べていたものに目を落としました。

そこには、親子や養子といった言葉が並んでいました。

「養子……」

桃太郎は声に出しました。

聞いたことはあります。

けれど、自分のこととして考えたことはありません。

そもそも――

自分は、おじいさんとおばあさんの「子」になったとき、何か手続きをしたのだろうか。

桃太郎は記憶をたどりました。

当然ながら、覚えていません。

なにしろ、家へ来た日のことさえ覚えていないのです。

桃太郎は、おばあさんのところへ行きました。

桃太郎、あることに気づく

おばあさんは縁側で、洗濯物を畳んでいました。

「おばあさん」

「なんだい?」

桃太郎は隣に座りました。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「珍しいねえ。改まって」

「ぼくがこの家に来たときのこと、覚えてる?」

おばあさんは手を止めました。

「もちろん覚えてるよ」

「どんな日だった?」

「どんな日って……」

おばあさんは少し笑いました。

「ずいぶん昔の話をするんだねえ」

「いいから」

「そうだねえ」

おばあさんは遠くを見るような目をしました。

「よく晴れた日だったかねえ」

「うん」

「おじいさんは山へ柴刈りに行っていて」

「うん」

「私は川へ洗濯に行ったんだよ」

「うん」

「そうしたら、川上から大きな桃が流れてきてねえ」

「……うん」

「どんぶらこ、どんぶらこと」

「そこは覚えてる」

「お前は覚えてないだろう」

「話として何回も聞いたから」

「ああ、そうかい」

おばあさんは洗濯物を一枚畳みました。

桃太郎は続きを待ちました。

「それで?」

「それで、あんまり立派な桃だから、家へ持って帰ったんだよ」

「うん」

「おじいさんが帰ってきてね」

「うん」

「二人で食べようということになって」

「うん」

「桃を割ったら――」

おばあさんが桃太郎を見ました。

桃太郎も、おばあさんを見ました。

「……ぼくが出てきた」

「そうだねえ」

「…………」

「…………」

風が吹きました。

庭の葉が、かすかに揺れました。

桃太郎はしばらく黙っていました。

そして、人生で初めてと言っていいほど真剣に、自分の生まれ方について考えました。

そうだ。

ぼくは桃から生まれている。

知っていました。

もちろん知っていました。

自分の名前が桃太郎なのですから、知らないはずがありません。

けれど、これまでそれを「法律上の親子関係」というものと結びつけて考えたことは、一度もありませんでした。

「おばあさん」

「なんだい?」

「そのあと、ぼくはどうなったの?」

「どうなったって、うちの子になったよ」

「そうじゃなくて」

桃太郎は少し困りました。

「何か、手続きみたいなことはした?」

「手続き?」

「ぼくを、おじいさんとおばあさんの子どもにするための」

おばあさんは首をかしげました。

「さあ……」

「覚えてない?」

「何しろ昔のことだからねえ」

おばあさんはしばらく考えました。

「おじいさんが何かしていたかもしれないし、していなかったかもしれないねえ」

桃太郎は黙りました。

「どうしたんだい?」

おばあさんが尋ねました。

桃太郎は、おじいさんの相続について調べていることを話しました。

そして、自分がおじいさんの財産を相続できるのかどうか、分からなくなったことも。

話を聞き終えると、おばあさんは少し驚いた顔をしました。

「お前はおじいさんの息子じゃないか」

「ぼくも、ずっとそう思ってるよ」

「おじいさんだってそう思ってたよ」

「うん」

「じゃあ、何が問題なんだい?」

桃太郎は少し考えました。

「たぶんね」

ゆっくり言いました。

「ぼくたちが家族だと思っていることと、法律の上で家族になっていることは、同じとは限らないみたいなんだ」

おばあさんは黙りました。

家族だった時間

その夜、桃太郎はなかなか眠れませんでした。

自分がおじいさんの息子ではない。

そんなふうに思ったわけではありません。

むしろ逆でした。

考えれば考えるほど、おじいさんとの時間ばかり思い出しました。

畑仕事を一緒にするようになったころには、桃太郎の方が力が強くなっていました。

それでも、おじいさんはいつまでも桃太郎を子ども扱いしました。

寒い日に薄着で出れば、「風邪をひくぞ」と言いました。

帰りが遅ければ、「どこへ行っていた」と聞きました。

桃太郎が何歳になっても変わりませんでした。

それを思い出すと、妙な気持ちになりました。

法律がどうであれ、あの人が父親だったことまで変わるわけではありません。

それなのに。

相続ということになった途端、「法律の上ではどうなっているのか」を確認しなければならない。

桃太郎には、それが少し寂しく感じられました。

「息子だから」で済ませていたこと

それから桃太郎は、必要なことを少しずつ調べました。

誰が相続人になるのか。

もし自分がおじいさんの法律上の子になっていないのなら、それを前提に考えなければならないこと。

調べるほどに、桃太郎は思いました。

自分は、家族のことを何も知らなかった。

いや、家族のことだからこそ、知らずにいられたのかもしれません。

「ぼくは息子だから」

その一言で、これまで考える必要がなかったのです。

家族として暮らすだけなら、戸籍を確かめることなどありませんでした。

病気になれば心配し、困っていれば助け、うれしいことがあれば一緒に喜ぶ。

それで十分だったのです。

けれど、人が亡くなり、財産を誰が受け継ぐのかという話になると、それだけでは決まらないことがあります。

桃太郎は初めて、それを知りました。

もっとも、調べるほどに、迷うことも増えていきました。

「鬼ヶ島へ行ったときより、分からないことが多いよ」

桃太郎がこぼすと、おばあさんが言いました。

「犬たちは呼ばないのかい?」

「今回はたぶん無理だと思う」

「猿は頭がよさそうじゃないか」

「こういうことに詳しいとは聞いてないなあ」

「キジは?」

「もっと難しいと思う」

二人は少し笑いました。

おじいさんが亡くなってから、その家で二人が一緒に笑ったのは、それが初めてだったかもしれません。

ある日の夕方。

桃太郎は縁側に座り、庭を眺めていました。

おばあさんが隣に座りました。

「分かったのかい?」

「まだ全部じゃないよ」

「そうかい」

しばらく二人で黙っていました。

「桃太郎」

「なに?」

「私はね」

おばあさんは庭を見たまま言いました。

「お前がどこから生まれたって、どうでもよかったんだよ」

桃太郎は笑いました。

「桃からだけどね」

「それは知ってるよ」

「うん」

「川から拾ってきた桃を割ったら、お前がいた。それで、一緒に暮らした。それだけだよ」

桃太郎は黙って聞いていました。

「おじいさんも同じだったと思うよ」

「うん」

「お前を息子じゃないと思ったことなんて、一度もなかっただろうさ」

桃太郎は、小さくうなずきました。

「ぼくも、お父さんじゃないと思ったことは一度もないよ」

おばあさんは桃太郎を見ました。

「じゃあ、それでいいじゃないか」

桃太郎は少し考えました。

「うん」

そして続けました。

「家族としてはね」

おばあさんは何も言いませんでした。

「でも、おじいさんが残したものをちゃんと受け継ぐには、それだけじゃ足りないこともあるんだと思う」

「そういうものかねえ」

「そういうものみたい」

桃太郎は家の中を振り返りました。

「だから、ちゃんと調べるよ」

「何を?」

「ぼくたちが、法律の上ではどんな家族になっているのか」

おばあさんは少し寂しそうに笑いました。

「家族にも、いろいろあるんだねえ」

「そうみたいだね」

桃太郎も笑いました。

おじいさんが残した家

数日後。

桃太郎とおばあさんは、畑の端に立っていました。

目の前には、三人で長く暮らしてきた家があります。

新しい家ではありません。

立派な家でもありません。

よく見れば、桃太郎が直した屋根の色が少し違います。

柱には、おじいさんが何度も道具をぶつけた跡があります。

縁側には、おばあさんが洗濯物を置いた跡があります。

庭の隅には、桃太郎が子どものころにつまずいて割った石があります。

「まだ残してるんだね、あの石」

桃太郎が言いました。

「おじいさんが、直すのが面倒だって言ってたからねえ」

「何十年、面倒だったんだろう」

「さあねえ」

二人は笑いました。

家の横には、小さな畑があります。

おじいさんが耕していた畑。

やがて桃太郎と二人で耕すようになった畑。

最後には、桃太郎一人で耕すことが多くなった畑。

桃太郎は、昔ここでおじいさんに言われた言葉を思い出しました。

「この畑も、お前の方が詳しくなったな」

あのときは、何でもない言葉だと思っていました。

もしかすると、おじいさんは少しずつ、自分がいなくなった後のことを考えていたのかもしれません。

けれど、本当のところは分かりません。

聞くことは、もうできません。

桃太郎は家を見ました。

これまで、この家を「誰のものか」と考えたことはほとんどありませんでした。

おじいさんの家。

おばあさんの家。

そして、自分の家。

全部同じ意味だと思っていました。

けれど相続では、そう単純ではないのかもしれません。

誰が家族なのか。

誰が相続人なのか。

誰が何を受け継ぐのか。

そして、亡くなった人は、本当は誰に何を残したかったのか。

元気なうちに話しておけば、分かったこともあったでしょう。

確認しておけば、迷わずに済んだこともあったかもしれません。

「おばあさん」

「なんだい?」

「おじいさん、生きてるときに聞いておけばよかったね」

「何をだい?」

桃太郎は少し考えました。

「いろいろ」

おばあさんは家を見ながら、ゆっくりうなずきました。

「そうだねえ」

二人は、しばらくそのまま家を眺めていました。

悲しいだけではありませんでした。

ここには、おじいさんが生きた時間があります。

三人で家族として暮らした時間があります。

それは、法律がどうなっていても消えません。

けれど、大切な人が残したものを、思っていたとおりに次の人へ渡すためには、「家族だから大丈夫」と思うだけでは足りないこともあります。

桃太郎は、ようやくそれを知りました。

鬼ヶ島へ向かったあの日とは違う、新しい旅の始まりのようにも思えました。

今度は刀も、きびだんごもいりません。

必要なのは、自分たちの家族が法律の上でどうなっているのかを知ること。

そして、大切な人が元気なうちに、これからのことを話しておくことでした。

あの日、どんぶらこ、どんぶらこと川を流れてきた一つの桃。

そこから始まった家族のお話は、おじいさんがいなくなったあとも続いています。

桃太郎とおばあさんは、並んで家を眺めていました。

おしまい


この物語、相続ではどうなる?

桃太郎のお話を、現代の日本の相続制度に置き換えて考えてみます。

今回のポイントは、「桃太郎は、おじいさんの相続人になれるのか?」です。

育ててもらっただけで「子」になるとは限らない

桃太郎がおじいさん・おばあさんと長年一緒に暮らし、実の子どもと同じように育てられていたとしても、それだけで法律上の子どもになるとは限りません。

相続では、家族としてどのように暮らしてきたかという実態だけではなく、法律上どのような親族関係になっているかが重要になります。

桃太郎が養子になっていた場合

もし、おじいさんと桃太郎との間で法律上の養子縁組が成立していたのであれば、桃太郎は原則として、おじいさんの「子」として相続人になります。

つまり今回の物語で重要なのは、桃太郎が「桃から生まれた」という不思議な出生そのものではなく、その後、おじいさんとの間に法律上の親子関係が成立していたかどうかです。

誰が相続人になり、どの順位でどれだけ受け継ぐのかは、『法定相続人とは?誰が相続人になるか|順位と法定相続分の基本』で整理しています。

養子縁組をしていなかった場合

一方、桃太郎がおじいさんの実子ではなく、法律上の養子にもなっていなかったとすると、実の息子のように育てられ、何十年も家族として暮らしていたとしても、原則として、おじいさんの「子」として法定相続人になるわけではありません。

「ずっと息子として育ててきた」「本人たちも親子だと思っていた」という事実と、法律上の相続関係が一致しない場合があるということです。

法定相続人でなければ財産を残せない?

法定相続人ではないからといって、必ずしも財産を残せないわけではありません。

たとえば、遺言によって特定の人に財産を渡す方法などが考えられます。

ただし、実際には他の相続人の有無、遺留分、財産の内容などによって検討すべき点が変わります。

遺言でどこまで財産を渡せるのか、遺留分との関係については、『遺言と遺留分|偏った遺言でも相続人の最低限の取り分は守られる』で説明しています。

そのため、「誰に何を残したいのか」が明確なのであれば、元気なうちに法律関係を確認し、必要な準備をしておくことが大切です。

桃太郎から考える「家族と相続」

桃太郎にとって、おじいさんは父親でした。

おじいさんにとっても、桃太郎は息子だったでしょう。

一緒に過ごしてきた時間まで、法律が否定するわけではありません。

「大切な家族であること」と「法律上の相続人であること」は、必ずしも同じではありません。

実の親子、養親と養子、再婚によってできた家族、長い間一緒に暮らしてきた家族。

家族のかたちはさまざまです。

だからこそ、「家族だから大丈夫」と思い込まず、自分が亡くなったときに誰が相続人になるのか、そして誰に何を残したいのかを、一度確認しておくことが大切です。

桃太郎のように、大切な人が亡くなってから初めて気づくことがないように。

元気なうちに話し、確認し、必要なら準備しておくこと。

それも、大切な家族にできることの一つなのかもしれません。


※この物語は、昔話「桃太郎」をもとに、相続について考えるために創作したものです。実際の相続関係や必要な手続きは、親子関係の成立状況、戸籍、遺言、家族構成、財産の内容などによって異なります。具体的な事情については、弁護士、司法書士、税理士などの専門家への相談をご検討ください。

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